いそいそ (6) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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「うん。琉球古典の教室に通っている」 「琉球古典って、難しいんでしょう?」 伝統的な三線音楽のジャンルは、古典と民謡に分けられる。と、これまた旅行ガイドブックで読んだ。古典=琉球古典は、最も伝統を重んじるジャンルで、独学は無理だって書いてあったっけ。ボクはそれを読んで、琉球古典は自分の手の届かない、どこか遠くの世界の音楽のように思っていた。 「でもないよ」 うまい人は、難しいとは言わないんだろうな。 「じゃあ、ボクでもできますか」 ちょっと意地悪な質問をしてみたつもりだった。「いやあ、だれでもできるってわけじゃないんだよ」と言うかと思えば、 「絶対にできる」 ものすごい自信だ。さらに、こう続けた。
ドクの説明では、琉球古典には初心者に楽しめる曲から超難曲まで、ありとあらゆる曲があるんだそうな。そして、初心者に楽しめる曲も、歌い込むことで曲の深いところまで理解できるようになる。たくさんの曲が揃っているという横への広がりと同時に、一つの曲をとことん突き詰めていく深さもある。それが琉球古典の奥深さなんだって。でも、本当に初心者でも楽しめるのだろうか。 「初心者の曲って、どんなのですか?」
お安い『安波節』よりも、こちらの『かぎやで風』をお求めになった方が、あとあと後悔しませんよ。ってとこかな。セールストークは続く。
そこで、ドクは少し遠くを見るような目になった。 「なんてったって、『かぎやで風』は、美しい」 「美しい?」
ボクは、ドクの視線の先を見てみた。「夢に乾杯」と書かれたオリジナルラベルだった。そこへ店主が。 「ドク、美しいって、口で言うだけじゃあ、だめでしょ」 ボクもお願いした。 「そう、そうですよ。是非聞かせてください」 (7)へ |