きらきら (1) | |||||||||||||||||||||||||||
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土曜日の朝。立春はとっくに過ぎたけれど、暖かくなるのはまだまだ先のようだ。 遅めの朝食をとって、管理人さんのところへ。今日も集会所を使わせてもらうつもりだ。と、その時気づいた。トヨさんと練習をするなら、ここへ来てもらったらどうだろう。集会所で練習すれば、思う存分音を出せるし歌うこともできる。 昨日教えてもらった電話番号にかけてみた。トヨさんが出た。 「本当にいいのかねー」 「はい。トヨさんのご都合がよければ、ですけれど」 「うちは暇だのに。仕事もないしねー」 「じゃあ、今から迎えに行きますよ」 住所を聞いたところ、車で二十分程度の距離らしい。往復四十分。決して近くはないけれど、ボクはそれでも一緒に練習したかったんだ。 一時間後。ボクはトヨさんと一緒に集会所にいた。 練習を始めたけれど、やはり先週と同じところをもう一度やらなければならなかった。ただ、先週よりも覚えるのは早くなっているみたい。指も動きやすくなっているのは、気のせいではないと思う。 「ずいぶんうまくなったんじゃないですか?」 「アハハ。先生がそう言ってくれると、そんな気がするねー」 トヨさんは、うれしそうに言った。 三十分ほど三線を弾いて、少し休憩することにした。しまった、お茶くらい用意するべきだった。
ぼくはそう言って、急いでコンビニに走った。暖かいお茶を二本持って集会所に戻った。トヨさんは休んでいなかった。三線を持って、真剣な顔で練習をしていた。 「熱心ですね」
ボクに喜んでもらう?そうかもしれない。ボクは教えているんだろうけれど、いろんなことを教えられている。ボクはトヨさんを喜ばせようと思っているけれど、ボクが喜ばせてもらっている。 お茶を飲みながら、ボクはこんな質問をしてみた。
好きだから、とか、子どもの頃に聞いたから、なんていう返事を想像していたのだけれど、 「おじいさんに聞かせてあげたくてね」 ボクは、トヨさんのことは何も知らない。会うのもまだ二度目だし。でも、この質問が三線の会にとって大きな意味を持つようになる。この時は、気づいていなかったんだけれどね。 お茶の時間はお終いにして、三線の練習を再開した。お茶のおかげで手が温まったのだろうか。練習を始めた頃よりも、さらに手の動きがよくなっているようだ。 「歌持は、もう弾けそうですよね」 「歌持って、ここまででしょ。いけるかもしれないね」 とは言ったものの、まだ一人では無理だった。特に、〈七〉の打ち音は難しい。指に力がない。でも、省略しないで、指を動かしてもらうことにした。音は出ていないんだけれど、省略しないってことが大切な気がしたんだ。トヨさんは、ボクが指示しなくても、同じ場所を何度も繰り返している。まるで、夢中になって遊んでいる子どものようだった。 (2)へ |