とんとん (1) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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「ハッピーバースデートゥーユー」 タカさんの三線伴奏で合唱だ。三線の会のメンバーが、木曜日にS.W.L.に集まったのは、店主の誕生日だからだ。掲示板で呼びかけがあって、こうしてみんなが集まった。貸し切りってわけじゃないけれど、木曜日の夜は暇なようで、他のお客さんはだれもいない。 ロウソクが五本立てられた小さなケーキが、アキちゃんの手で運ばれてきた。 「ロウソク一本が、八年分でーす」 ってことは、四十歳か。 歌の終わりと同時に、店主が笑顔のまま火を吹き消した。拍手が鳴りやむ前に、ドクが立ち上がって泡盛のグラスを目の高さに差し出した。 「人生の大先輩に、乾杯!」 「乾杯!」 「ありがとう。でも、ドクの方が一つ上だからね」 ここに集まっている人たちって、年齢がわからない。一番上がドクなのかな。店主より、ドクの方が若く見えるけれど、それは口に出さないでおこう。 「ああ、オレより年上の人は、入ってこないのかねえ」 ドクの芝居がかった言葉に、アキちゃんが答えた。 「入りましたよー。オバアが」 「え?オバア」 ドクは、まだ会っていないんだ。
ボクはアキちゃんに尋ねた。 「あの、今日は?」 「声をかけたんですけど、夜遅くなるし遠慮しておきますって」 おじいさんに付き添っているのかもしれないな。
みんなが笑った。ボクは笑えなかった。店主がこちらを向いた。 「トヨさんの練習は、どう?」
タカさんがボクを見た。ボクが「そうですね」とかなんとか、同意すると予想していたんだ。でも、ボクは返事ができなかった。トヨさんの言葉を思い出していた。『間に合わないかもしれない』ゆっくりしていられない。 (2)へ |