いそいそ (1) | ||||||||||||||||||||||||
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S.W.L.での練習から六日後の土曜日。この週は仕事の都合で帰宅が遅くて、思うように練習時間がとれなかった。今日は仕事が休みなので、久しぶりに河川敷へ。と思ってケースを背中にかけて自転車に乗った。北風が強いけれど、追い風になって楽だった。 河川敷のいつものベンチは、風を遮る物がない。ケースを膝の上に置いて、三線を取り出そうとしたとき、強い風でケースがあおられた。あやうく膝から落とすところだ。目を開けているのも辛い。ジョギングをしている人が、俯き加減にボクの前を通り過ぎていった。 三線を手にして驚いた。三線って、こんなに冷たくなるんだ。ああ、南国生まれのボクの三線。こんな寒風吹きすさぶ河川敷に連れてこられて、さぞ辛かろうなあ。沖縄を思い出しているだろうなあ。ケースが飛ばされないように膝で挟んで、三線のウマを立てて調弦しようと構えたら、一段と強い風が吹き付けて、三線の弦がヒューンと鳴った。 「ああ、三線が泣いている・・・」 ボクはウマを外して三線をケースに戻し、自転車に乗って家に向かった。これは、三線のためなんだ。三線が可哀想だから家に帰るんだ。ボクは、寒さに怯むような弱虫じゃあない。 向かい風に押し戻されそうになりながら、なんとか社宅にたどり着いた。 さて、土日の河川敷での練習も、冬場はお休みするしかなさそうだ。もちろん、三線のためにだ。社宅で自作の消音ウマを使って演奏しよう。 『唐船どーいー』は、工工四を見ながら三線を弾くことはできるようになった。歌も「とーしんどーいーさんてー」までなら歌える。なんだそれだけか?それだけでも、すごい進歩でしょう。 でも、困ったことがある。S.W.L.から借りてきた工工四と、ボクの持っているCDの演奏とが違っているようなんだ。本当に違っているのか、合っているんだけれどボクの演奏が悪いから違って聞こえるのか、どっちなのか自信がない。オジイがいてくれたら、なんて弱音を吐きそうになった。そうだ、S.W.L.の店主に相談してみよう。ついでにS.W.L.が何の略かも聞いてみよう。と思いついたのは木曜日の仕事帰りだった。 ボクは、家に帰ると、カバンを三線ケースに持ち替えた。そのまま外に出て、また慌てて部屋に戻った。工工四を小さな書棚から引き抜いて、小脇に抱えて外に出た。 (2)へ |