こつこつ (1) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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トヨさんも「発表会」に参加することが決まった。って、トヨさんがおじいさんに歌を聴かせたいっていう話から始まった計画なんだから、トヨさんが参加しなけりゃ意味無いんだけど、他のメンバーが先に盛り上がってしまって、トヨさんへの話が最後になってしまった。 とにかく、全員が参加することになったのはいいんだけれど、いつやるのか、何をやるのか、まだ具体的なことは何も決まっていない。 そんなわけで、次の日曜日に急遽全員招集となったのだ。 三線の会のS.W.L.は、いつもなら気ままに三線を鳴らしたりおしゃべりしたり飲んだりしているんだけれど、今日はお互いの顔が見えるように、円陣を組んだような格好だ。 「日程から決めよう。アキちゃん」
トヨさんは、ニコニコしながら座っている。アキちゃんと一緒に南星園へ行ってきたんだ。アキちゃんは、おじいさんに会ったのだろうか。そんなことを考えている間に、話し合いは進んでいた。 「今月の日曜日は、今日を除いてあと三回だよね」 タカさんが携帯を見ながら話を続ける。 「まあ、今月っていうのは無理として、来月だろう」 ドクが、カウンターにもたれかかりながら声を出した。 「第一か第二のどちらかってわけだな」
店主がトヨさんを一瞥してからボクの方を見た。そうなんだ。ボクは、トヨさんのあの言葉「間に合わないかも」っていうのを、みんなにも伝えてある。悪いことが起きるなんて想像したくないけれど、でも、早いほうがいいと思う。トヨさんを前にして「おじいさんの体のために、早いほうがいい」と言うのは気が引ける。と思っていたら、ドクが声を出した。 「早いほうがいい」 みんなの顔が少しこわばったように見えた。ドクが続けた。
みんなが笑った。みんな本当は、おじいさんの体のことを考えて早いほうがいいって思っているんだ。でも、それを口に出したくないんだ。店主がまとめた。
「私もー」 「となると、次は演目だな。やっぱり琉球古典を」 「ドク!」 今日のツッコミも冴えている。喜劇のようだ。 「一曲くらいいいでしょ?」 これまた喜劇みたいに、ドクがしょんぼりした声を出す。店主が話を進める。 (2)へ |