ずきずき (1) | ||||||||||||||||||||
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この一週間も、仕事は相変わらずの忙しさだ。社宅に戻るのはいつも夜の九時過ぎだった。夜は歌の練習はできないので、専ら三線の練習。『唐船どーいー』を繰り返して練習する。紅茶を飲みながらね。 最近、掛音というのも覚えた。歌持の〈七〉〈七〉で使いたくて。掛音っていうのは、できるようになるまではとっても難しい技だと思っていたけれど、できるようになると驚くほど自然にできてしまう。最近は、掛けようと思わなくても掛かってしまうくらいだ。 こうなってくると、三線を弾くのがおもしろくて、つい遅くまで練習してしまう。練習すれば上手くなる。上手くなれば練習が楽しくなる。ボクの三線人生はばら色じゃないか! でも、木曜日の夜。困ったことが起きてしまったんだ。 いつものように、やかんがピーと鳴るまで『唐船どーいー』を弾いていた。歌持を繰り返していると、左手の人差し指に違和感を感じたんだ。〈五〉の勘所を押さえるときに、少し曲げにくいような気がした。毎晩早弾きの練習ばかりしていて、少し疲れたのだろう。そう思って、いつもより早めにお風呂へ。ゆっくり体を温めて、 リラックスしてからまた三線を弾いた。いつもよりも指がよく動く気がした。気のせいかもしれないけれどね。 三線を弾いて三十分ほどたつと、また左手の人差し指が気になりだした。見たところ、腫れているわけでもないんだけれど、曲げにくい。もしかして、これを克服した先にすばらしい世界が広がっているのかもしれない。なんて勝手な判断をしてそのまま練習を続けた。何度も何度も、人差し指を虐めるように練習をした。今度は。指が痛み出した。曲げると痛い。日付が変わる頃には、〈五〉の勘所を押さえるのが辛いほどになっていたんだ。 翌朝、痛みはなくなっていたけれど、ボクは左手の人差し指を曲げるのが恐かった。カバンもずっと右手で持ち続けた。つり革も右手。パソコンのキーボードも右手だけ。って、これはいつも右手だけなんだけど、とにかく左手をかばい続けた。昼ご飯を食べ、営業で外回りをしているうちに、指の痛みを忘れてしまっていた。 (2)へ |