いそいそ (2) | ||||||||||||||||||||||||
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S.W.L.へは二度目。店の営業中に来るのは初めてだ。階段を下りると、沖縄民謡が微かに聞こえた。生演奏ではなくて、CDか何かだろう。カランカランと鳴らしてドアを開けると、暖かい空気が体を包んだ。同時に、何かスパイシーな香りが漂ってきた。強い香りだけれど、いやじゃない。食欲をそそる香りだ。 店内は、この前来たときと違って、照明がずいぶん押さえられている。営業中は、こんな雰囲気なんだ。 「いらっしゃい」 店主の横顔は、仕事中の厳しい表情だった。ボクと目が合って、少し表情が緩んだ。 「ああ!どうぞどうぞ」 それでも、手は忙しそうに動いている。料理の盛りつけをしているらしい。 店内には、カップルが一組だけ。店主は、少し大きめのお皿に盛られた料理を持ってカウンターから出てきた。それをカップルのテーブルに置くと、ドアを背にして立ったままのボクに、カウンター席を勧めてくれた。一番奥の席で、仕事中の店主とも話のできる位置だ。三線ケースは隣の席に倒れないように立て掛けた。店主はカウンターの向こう側に戻って、こう言った。 「いらっしゃいませ。何になさいますか」 少しおどけたような口調だった。ボクは、ビールをお願いした。出てきたのは沖縄のビールだった。 「どこかに出かけてたの?三線持って」 「いえ。仕事帰りで」 「へ?三線持って仕事に行ってるの?」 「いえいえ、仕事から家に帰って、三線をもってここへ」 「ハハハ、そうだよね」 「あの、ちょっと教えてもらいたいことがあるんですけれど」 「はいはい?」 ボクは、家のCDと店主から借りた工工四が違っているみたいだという話をした。店主は、当然のことだと言わんばかりに、こう言った。 「早弾きだからね」 よく意味がわからない。ボクが次の質問を用意する前に店主が言った。 「一度弾いてみてよ」 「ええ!まだ弾けませんから」 「どこまでできたか、聞かせてよ。お客さんも喜ぶよ、きっと」 店主は、店内に流れていた音楽を切っちゃった。カップルが首をこちらに向けた。困ったぞこれは。断れないぞ。 (3)へ |