いらいら (1) | |||||||||||||||||||||||||
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発表会二週間前。 全体練習は今日と来週の二回だけ。でも、この日のみんなは先週よりも落ち着いていた。曲も決まったし、順番も決まったし。もう心配なし、って感じだ。 「プログラム通りやってみようか」 予定の三時には全員が集まっていた。店主の指示で、店内の椅子やテーブルを移動させて、空いたスペースを舞台に見立てる。カウンターの方が客席だ。みんなが三線を持って狭い舞台に立っている。ナンちゃんは笛だ。トヨさんの四つ竹はタカさんが用意していた。四つ竹をトヨさんに手渡しながら、タカさんが、 「キーを決めないといけないね」 キーとは、調弦の高さのことだ。ドクが言った。 「Aでいいんじゃないの」 店主がチューナーを出してAに合わせる。みんながその音を聞いて合わせる。これが、簡単そうでなかなかできない。みんな一斉に合わせようとするから、お互いの音が邪魔になるんだ。今度から、チューナーとコンタクトマイクを持ってこよう。 どうにか調弦できた。と思ったら、またタカさんだ。 「アキちゃん。女弦弾いてみて。うん。ちょっと高いかな」 タカさんって、耳がいいんだ。でも、なかなか演奏が始まらないので、ドクがちょっと不機嫌そうに見える。 「ここでいいかねー」 トヨさんは一番端っこに立った。そうだ、立つ位置も決めなくちゃ。タカさんが声を出す。
と、手際よく位置を決めてくれた。やっと歌が始められる。 「じゃあ、始めよう。せーのー」 「ちょっと待って」 タカさんがまた待ったを掛けた。 「おいおい、歌が始まる前に練習が終わっちゃうぜ」 ドクのイライラ度はさらに高まっている。 「でも、せーのーは、よくないと思うんだよね」 ボクもそう思った。舞台の上にならんで「せーのー」はいただけない。ドクは両手を広げて降参のポーズをして、一番近い椅子に座ってしまった。それを見た店主が何かをいいかけてやめた。タカさんがそれに気づいたようだ。
なるほど。出だしは一人、途中から全員が合流するってわけだ。良い考えだと思った。ところが、今度はアキちゃんが口を尖らせた。 「えー?最初は〈工〉じゃないんですかー」 それに大きく頷いているのはナンちゃんだ。ドクが、 「〈合〉だろう。ほら」 と言って、歌の最初の部分までを弾いた。 「えー、私はこうだと思っていました」 アキちゃんのは、〈工〉から始まっていた。「なきなさい・・・」というサビの部分を歌持にしているんだ。 (2)へ |