ふらふら (3) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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店内を見回している間に、さっきの男性がグラスを持ってきてくれた。やはり、店主なんだ。 「自由に飲んでくださいね」 と指さしたテーブルの上には、泡盛のビンとペットボトルに入ったお茶がおいてある。ボクは、コップを持ってお茶を入れに行った。と、またカランカランと二度鳴った。 「こんちはー」 髭を生やした、四角い顔の、ちょっと恐そうな男性だ。こちらもボクよりも年上かな。ボクの方を見て、小さく頷くと、店主の方に近づいてお金を出している。どうやら、会費らしい。 「あ、すみません。おいくらですか?初めてでわからなくて」 「500円です。ここに入れておいてください」 籐を編んだ小さな籠の中にお金を入れた。髭の人は、テーブル席に座って三線を用意している。ボクも三線を用意したほうがよさそうだ。 調弦をしている間に、また「カランカラン」と鳴った。 若い女性だった。目が大きくて、モデルのように細い人だ。年齢はボクと同じくらいかな。挨拶をかわす店主の顔が心なしかゆるんだように見えた。 「アキちゃん、ライブ、どうだった?」 店主が笑顔で尋ねた。三線の掛かった壁には、ポスターが貼ってある。沖縄関係のライブや舞台のものばかりだ。きっと、店主が「アキちゃん」に、ライブのチケットを売ったか譲ったか。
髭のおにいさんに微笑みかけた。「タカさん」というらしい。
どうも、ボクの想像とは違っていたようだ。アキちゃんがタカさんと一緒にライブの舞台に立ったってことなんだ。 髭のタカさんは、アキちゃんとのライブの話をしばらく続けていた。聞いていてわかったことは、ライブはどこかの沖縄料理のお店だったこと。久しぶりのライブで、張り切りすぎて二時間を超えてしまったこと。アキちゃんはゲストとして二曲演奏したこと。などだ。この人たちはプロなのか? ライブですばらしい活躍をしたアキちゃんをひとしきり誉め尽くしたところで、話はお客さんへの感謝の言葉になり、続いてライブにおける演奏者の心がけ、理想的な音響と照明、そして、八重山の歌がどうしてこれほどまでに人々の心に深く染みいるのかといった話題に移っていた。もしかすると、この話は永遠に続くのではないかと心配していたところに、ドアが「カラン」と一度だけ鳴って、三線ケースを持った男性がそっと入って来た。黒いザックも担いでいる。荷物の多い人だ。丸顔でぽっちゃりタイプのその男性はタカさんよりは若そうだった。店主が声をかけた。
この人は、ナンチャン。優しい感じの人だ。ナンちゃんの登場で、タカさんの話は切り上げられた。このあと何人集まるのかわからないけれど、初めてお世話になるわけだし、みなさんに挨拶をしないといけない。話が途切れたところで、ボクは思い切って声をかけてみた。 「すみません。今日初めてお世話になります」 「こちら、ニーニーのお友だちなんだって」 店主が紹介してくれた。 「はい。いえ、ちがいます。友だちっていうわけじゃなくて」 「いつから三線やっているんですかあ?」 今度はアキちゃんだ。 「そろそろ三ヶ月くらいになります」 矢継ぎ早に質問されて、どれもきちんと答えられなくて、体がかちかちだ。 「まあ、座って」 店主が声をかけてくれた。ボクはいつのまにか立ち上がっていた。
「歌ってくださーい。お願いしまーす」 「挨拶代わりってことで、お願いしますよ」 (4)へ |