ふらふら (2) | ||||||||||||||||||||||||||||
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日曜日。雨だ。雪になりそうだ。 午前中は溜まった洗濯物を洗って、部屋に干した。どうもいけない。洗濯物を干した部屋というのは、居心地が悪い。昨日やっておけば太陽の光があったのに。なんて後悔しても遅い。 生乾きの匂いがこもった部屋の中で、コンビニ弁当を食べる。ああ、今日もこうして夜になってしまうのかな。暇なら、三線を弾けばいい。心のどこかでそんな声がしたんだけれど、ボクはわざと三線の方を見なかった。でも、キッチンのテーブルの上に置いてある「S.W.L.」の名刺が目に入ってしまったんだ。名刺の上に、ペーパーウエイトのように置いてあるのは、携帯じゃないか。ボクは、お箸を携帯に持ち替えた。 「もしもし。あのー、三線の練習があると聞いたのですが」 「はい。今日ですよ。午後三時からです」 「初めてなんですけれど」 「どうぞどうぞ。場所はわかりますか?」 「はい。名刺をいただいていますので」 「もし迷ったら電話してください」 「はい、よろしくお願いします」 「はいはーい」 あら、名前も告げていないけれど、いいのかな。 名刺の裏に描かれた地図を頼りに「S.W.L.」へやってきた。店は地下にあるんだ。 狭い階段を下りる。階段の脇には、地酒の空き瓶が並んでいる。ああ、泡盛もある。有名な焼酎の瓶もあった。階段を下りきると、左手にドア。その向こう側から三線の音がしている。演奏中にドアを開けてよいものかどうか少しためらったけれど、そっと開けることにした。ドアは静かに開いた。と思ったら、ドアに取り付けてある「牛のベル」みたいなのがカランカランと二度鳴った。三線の音が止んだ。しまった、邪魔しちゃったかな。 「いらっしゃい。どうぞ」 三線をカウンターに置いて、ボクを笑顔で招き入れてくれたこの細身の男性が店主なのだろう。三十歳を越えたくらいかな。ボクよりも年上なのは間違いない。
ニーニーというのは、「お兄さん」という意味だ。と、旅行ガイドブックで読んだことがある。かわいい呼び方だけど、かわいすぎて幼稚な感じにも・・・いや、それがその土地の言葉であるならば、批判はするべきではないのだろうね。とにかく、ボクはニーニーのお友だちではないので、訂正しておかないといけない。
そういう説明は、どうでもよかったようだ。話の途中で椅子を勧められた。ボクは、三線ケースを壁に立て掛けて座った。 左半分は逆L字型になったカウンター。椅子が八人分。カウンターの中は厨房になっている。右半分には四人がけのテーブルが三つ。こぢんまりとした、しゃれたお店だ。入口横の壁には、三丁の三線がぶら下がっている。あんな風に壁に掛けておけば、いつでも演奏できるし、インテリアにもなるんだな。他の壁には、南の島の写真や海の写真。なるほど、沖縄っぽいね。 メニューを見ると、地酒と創作料理の店といった感じ。沖縄料理も作っているみたいだ。ビールの他に「ワイン」「焼酎」「泡盛」と区別して書かれていた。きっと、お酒にはこだわりがあるんだろうね。 (3)へ |