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わくわく (5)
ふらふら
いそいそ
かりかり
おたおた
どきどき
きらきら
ぽつぽつ
とんとん
こつこつ
わいわい
いらいら
ずきずき
ひしひし
わくわく
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
ゆるゆる
 さて、トヨさんの番だ。おっと、ボクの番でもある。
 椅子を用意して、座った。調弦は大丈夫だ。トヨさんは「うちの生まれた宮古島の『とうがにあやぐ』を歌います」とだけ言って、歌持を始めた。
 歌が始まると、ベッドに横たわり、鼻にチューブを入れているおじいさんの顔がこちらを向いた。やっぱりそうなんだ。トヨさんのオジイなんだ。職員の一人が、オジイの側へやってきて、体を起こす手伝いをした。大丈夫なのだろうか。おじいさんは、上体を起こして歌を聴いていた。左手が少し動いているように見えた。どうか無理をしないでください。
 一番の後半で、トヨさんの三線が止まった。でも、歌は止まらなかった。ボクの三線に合わせてトヨさんが歌った。二番の歌持からは、また自分で三線を弾くことができた。そしてなんと、二番は歌も三線も止まらずに最後まで演奏できたんだ。
 終わった。トヨさんの顔が輝いていた。今までで一番すばらしい笑顔だと思う。おじいさんも聞いてくれた。 そう。トヨさんは、間に合ったんだ。おじいさんは、また体を横たえた。

 プログラムはあと二つ。
 『十九の春』では、ボクは三線を弾かない。歌詞の書かれた大きな紙をお客さんに見せる役目だ。特に何をやるわけでもない。アキちゃんと二人で紙の両端を持って、リラックスしていた。
 店主の「みなさんよくご存じの『十九の春』です。一緒に歌いましょう」という声がかかり、三線が鳴り始めた。そのとたん、お客さんの視線が一斉にこちらを向いた。歌詞を持っているんだから、そうなるのは当たり前なんだけど、緊張しちゃった。ちらりとアキちゃんの顔を見ると、笑っていたんだ。お客さんに頬笑みかけながら歌っているんだ。タカさんも、パーランクーを打ちながら笑顔で歌っている。その時ボクは気づいた。三線を弾かなくてもボクは舞台に立っている。ボクたちの役目はこれなんだ、とね。ボクは、精一杯の笑顔で歌い始めた。するとどうだ、お客さんの中にも、笑顔で歌ってくれている人がいるじゃないか。それを見て、こちらの笑顔も明るさを増すってもんだ。舞台と客席の一体感って、こういうものなのかもしれない。
 お客さんの声は小さいし、揃っていないんだけれど、とても楽しそうに歌ってくれた。あの「あーー」という声が、四回も聞こえた。楽しいときに出る声なんだね。『十九の春』は、最高の盛り上がりだと思う。


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