わくわく (4) | |||||||||||||||||||||||||
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続いて、ドクだ。『かぎやで風』がお祝いの歌であることを説明してから、歌持を始めた。すると、驚いたことに、椅子席の一番前に座っていたおばあさんが、突然立ち上がったんだ。そして、客席の方を向いた。ドクはあわてなかった。いつものように歌を始めた。立ち上がったおばあさんは、両手を前に突き出している。踊っているんだ。きっと、手には扇子を持っているつもりなのだろう。見えない扇子を右に振ったり頭の上に上げたりしながら、その場でくるくると舞った。また「あーー」が聞こえた。 歌が終わった。おばあさんは何事もなかったかのように、椅子に座った。ドクは三線を持って、ボクたちがいる待機場所へは戻ってこずに、そのおばあさんの所へ降りていった。そのおばあさんの右手を持ち上げて、 「ありがとうー。すばらしい踊りでしたー」 職員のみなさんも、お年寄りも、ボクたちも拍手をした。ドクは、おばあさんの手をとったまま、顔を近づけて話しかけていた。
そう言って、手をさするようにしてから、顔を上げて、お客さんに深々とお辞儀をしてこちらへ戻ってきた。 ドクの目が潤んでいるように見えた。 次は、タカさんとナンちゃん。 『でんさ節』は、タカさんの歌三線とナンちゃんの笛だった。柔らかい笛の音とタカさんの声が溶け合うようだった。お客さんの一人が「すーりでんさー」と返しを入れていた。有名な歌なんだね。 『とぅばらーま』はタカさんとナンちゃんの掛け合い。これがすごかった。同じ歌なのに、二人の雰囲気が全然違うんだ。タカさんの歌は力強く心に訴える。ナンちゃんのは、透明な声でお客さんの心を包み込むようだった。歌の途中に拍手を入れたお客さんがいたけれど、間違いなく沖縄出身。いや、八重山出身に違いない。拍手の入れどころがわかっているって感じだ。職員のみなさんも、この二人の歌には聴きいってしまって、最後には、大きな、本当に心のこもった大きな拍手をしていた。気が付いたら、ボクも一生懸命拍手をしていたよ。 (5)へ |