わくわく (2) | |||||||||||||||||||||||
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会場に入る。学生食堂のような雰囲気だった。一番奥に舞台がある。舞台の左手には、会議用のテーブルと椅子が用意されていた。そこが我々の待機場所になるようだ。ボクたちは、お客さんをぐるりと回り込むようにして舞台に向かった。こちらを向いて拍手をしている人もいるけれど、まったく動かない人もいる。不思議な雰囲気だ。 舞台から客席を見る。向こう正面には、南星園の職員のかたが八名。同じ制服を着て並んで見ている。左の壁際には、ベッドに横になった人が三名。みなさん上を向いたまま動かない。一人は鼻にチューブを入れている。あの人がトヨさんの「オジイ」なのだろうか。客席中央には椅子が並べられている。後ろの方に座っている数名のお年寄りは、入所者ではなさそうだ。デイサービスで来てくださったのだろう。赤いカーディガンを着ているおじいさん、オシャレだね。 前の方に座っている十名ほどは、入所者のみなさんだろう。パジャマ姿の人もいる。 三線を構え、調弦を確認する。控え室で調弦してあるので、問題はないはずだけれど、念のため。女弦から三本の弦を「テン、テン、テン」と全員で鳴らした。すると、椅子席の真ん中あたりに座っている、白髪でおでこの広い、痩せたおじいさんが「がんばれよー」と大声を出した。パジャマ姿だから、入所者のようだ。それにしても、まだ始まっていないのに。一人で盛り上がられてもやりにくいよ。 全員でお辞儀をして『花』のスタートだ。お年寄りの拍手は「パタンパタン」と力がない。これはしかたない。そんな拍手を補うように、後ろの職員のみなさんが一生懸命拍手をしてくれるんだけど、これがかえって悲しく聞こえてしまうのはボクだけだろうか。 一緒に歌いましょうと声をかけたわけではないのだけれど、職員のみなさんが歌ってくれた。盛り上げようと一生懸命なんだね。それはうれしいけれど、ボクたちが気になるのは、お年寄りのみなさんの反応だ。ベッドの三名は、相変わらず上を向いたまま。椅子席の数名が手拍子をしてくれているので、聞いてくれているんだと安心できた。 二番のサビの部分で、客席の右の方から突然、「あーー」という大きな声が聞こえた。車イスのおばあさんが大きな声をだしたんだ。少し驚いたけれど、すぐに静かになった。職員のみなさんも、慌てた様子はなかった。 (3)へ |