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「で、誰から歌いますー?やっぱり、店主からですかー?」
「 |
最初は、舞台に全員並んで、余計な挨拶抜きで『花』から始めるんだよ。それが終わってから店主が挨拶。メンバーの紹介もしてもらう。で、みんなは舞台から出て、店主だけが残って沖縄民謡。ってのがいいと思うんだよね」 |
「さすがタカさん。考えてますねー」
「じゃあ、そういうことで。次は?」
「歌う順番は曲目が決まってからの方がよくないか?」
「 |
そうだよね。曲の並べ方で、ライブの印象はずいぶんかわるんだよね」 |
「 |
なるほど。じゃあ、『花』と『十九の春』、最後のカチャーシー以外に、みんなそれぞれが一曲ずつってことで、今日の打ち合わせは終了」
「はーい。ってい言いたいんだけど、一人じゃ不安ですー」 |
「二人組っていうのも、おもしろいと思うんだよね」
と言いながら、タカさんがボクの方を向いた。アキちゃんも見てる。
「ボクですか?あの、レパートリーが少ないし」
「大丈夫ですよー。一緒に練習しましょう。二人で二曲!」
ちょっとうれしいけど、すごく不安だ。
「 |
では、他のみんなは一曲ずつってことにしよう。トヨさんの『とうがにあやぐ』は、先生も一緒に演奏ね」 |
店主はそう言いながら、ボクを見てニヤリと笑った。
「 |
これでいいかな。次回までに自分の歌を決めておくってことで」 |
みんなが頷いた。でも、タカさんが待ったを掛けた。
「 |
カチャーシーは、誰が何を歌うか決めておいた方がいいよね」 |
ドクが、
「 |
そりゃ、店主とタカさんで決まりだろ。一番安心して聞けるし。曲目は二人で決めてくれればいい」 |
みんな納得すると思ったら、アキちゃんがおねだりするような声を出した。
「ドクも歌ってよ」
「 |
オレは歌ってもいいけど。うん。だったら、全員でやっちゃおうよ」 |
「全員!ってことは、いいんですかー。私も歌って?」
「うん。それ、いいと思うんだよね」
ああ、いいなあ。三線を弾いて、人に踊ってもらえるんだ。ボクも入れてくれるかな。
みんなが盛り上がっているところへ、店主がストップをかけた。
「いいけど、全員が歌ってしまうと、踊らせる人がいない」
やっぱりだめ?
「そうかー。踊る人も必要ってことですよねー」
店主が説明をした。
「 |
沖縄ファンばかりが集まるライブなら、みんながカチャーシーを知っているし踊ってくれるけれど、南星園はそういう人ばかりじゃない。ほとんどいないと思った方がいい。歌が始まってもだれも踊らないんじゃあ、悲しいからね」 |
「トヨおばあがいますよー」
「 |
そうだよね。トヨさんには踊り手になってもらう。としても、トヨさん一人で、お客さん全員を踊らせるってのは、無理があると思うんだよね」 |
ライブ経験のあるタカさんは、カチャーシーがどのように盛り上がるかと言うことも想像しているんだ。カチャーシーを知らない人は、当然カチャーシーを踊ることはできない。だから、お客さんの前で踊ってみせる人が必要だ。それを、トヨさん一人に押しつけるのは無理があるということなんだ。
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