とんとん (4) | ||||||||||||||||||||||
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「うぷゆてぃら」の次は「しうず」だ。と思ったら、「ず」ではなかった。「す」に「小さな○」という文字だった。「ず」の間違いかと思ったのだけれど、トヨさんの歌を聴くと「ず」とは少し違うようだ」 「これ、『すに○』で、なんて読むんですか?」 「わからんさー。何かねえ」 何かねえ?って、トヨさん、今読んでいたじゃないの。と言いかけたけれど、そうだ。トヨさんは文字を読ん でいるわけじゃないんだ。覚えている歌を歌っているだけ。 「三線を弾かずに、そこまで歌ってくれませんか」 やっぱり「ず」じゃない。「じ」みたいな「ず」のような。不思議な発音だ。 そうか、これだ。S.W.L.で、トヨさんが『とうがにあやぐ』をやりたいと言ったとき、店主が難しい顔をして言っていた「宮古の発音」って、これのことなんだ。 「もう一度、お願いします」 二度聞いても、やっぱり不思議な音だ。ついでに、もう一つ発見した。歌詞は「しうず」となっているけれど、ボクには「しゅーず」と聞こえる。これも宮古の発音なのか?難しすぎるぞ。 「ちょっと聞いてもらえますか」 ボクは、トヨさんの真似をして歌ってみた。 「どうです?合ってます?」 「うん。上等」 トヨさんとの練習を始めるようになってから、『とうがにあやぐ』のCDを何度も聞いている。覚える努力も、まあ、『唐船どーいー』7割、『とうがにあやぐ』3割くらいはやってきたつもりだ。いや、2割くらいかな。とにかく、そこそこ歌えるようにはがんばった。その成果が出ているのかもしれない。ボクにも宮古の発音が身に付いているのかもしれない。 と、一瞬喜んだ。でも、ボクにできているなんて、そんなことはありえない。あの時の店主の顔。困り切った表情だった。店主が困るような発音が、このボクに、簡単に克服できるはずはない。 「上等?ボク、宮古の人みたいに歌えていますか?」 「宮古の人でも、こんなに上手に歌えないはずよ」 この言葉でわかった。ボクを喜ばせようとしてくれているんだ。 「発音はどうですかね」 「上等」 ボクは、もういちど「しゅーず」をやってみた。 「宮古の人みたいに、発音ができていますか?」 (5)へ |