ひしひし (4) | |||||||||||||||||||||||||
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最後に、明日の予定を確認だ。アキちゃんがノートを開いて読み上げた。 発表会は、午後四時から五時まで。南星園へは、午後三時に集合。駐車場に集まってから、荷物を持って二階の談話室に荷物を持って上がる。それから、舞台の確認。マイクの準備などを南星園のスタッフと一緒に済ませて、あとは、時間まで談話室が控え室となる。当日は、南星園の入所者だけでなく、デイサービスという日帰り利用のみなさんも鑑賞することになっているんだって。お客さんが多いってのは、嬉しいことだよね。 「で、私、こんなのを作ってきましたー」 アキちゃんが、大きな紙袋の中から、大きな巻物のようなものを取り出した。巻物の一方をドクに持たせて、アキちゃんがくるくると伸ばしていく。伸ばしきると、三メートルほどになった。そこには「島唄サークル・かぎすま」と大きな文字が書かれていた。みんなが拍手をした。 「あいー。アキちゃん。上等だね」
と、巻物を巻き取って、別の大きな紙を取り出した。こっちは、たたんであった。 「プログラムでーす」 縦長の大きな紙には、『花』から『カチャーシー』まで、丁寧な文字で曲目が書かれていた。一番下には、可愛い三線のイラストも。さらに、もう一枚には『十九の春』の歌詞もあった。ボクとアキちゃんがお客さんに見せるんだ。 お金も手間もかかっているから、せめてお金だけでもみんなで負担しようと店主が言ったのだけれど、アキちゃんは受け入れなかった。 「連絡は以上でーす。ご質問は?」 「はーい」と、ドクだ。子どものように、手を上げたまま「打ち上げはどこでやるんですかー」と大きな声を出した。店主が笑いながら言った。 「うちでいいよ。どうせ店は休みだし。会費は二千円ね」 「金とるのかよー」 「当然だろう。飲み放題に料理付きで二千円」 「ミミガー食べ放題?だったら、許す」 みんなも笑った。
そこへ、トヨさんが落ち着いた声で、諭すようにこう言った。 「アキちゃん、はい、と言っておきなさい」 アキちゃんも納得した。 社宅の窓から外を眺めた。集会所が薄暗い街灯に照らされ、コンクリートの壁が濡れたように光っていた。あっという間の三ヶ月だった。オジイに三線を教えてもらって、結婚披露パーティーで歌って。人前で歌うのはそれが最後だろうと思っていたけれど、まさかまた舞台に立つとは。オジイがいたら、喜んでくれたかな。 カーテンを閉めて、振り返った。オジイはいないけれど、不安はなかった。仲間がいるからだ。椅子に座って、明日のことをイメージしてみた。心の中で、全曲歌ってみた。お客さんの歓声が聞こえたような気がした。 「わくわく」へ→ |