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どきどき (2)
ふらふら
いそいそ
かりかり
おたおた
どきどき
(1)
(2)
(3)
(4)
きらきら
ぽつぽつ
とんとん
こつこつ
わいわい
いらいら
ずきずき
ひしひし
わくわく
ゆるゆる
ね、頼むよ。そこの席に座って弾いてくれればいいんだから。ね」

 ボクは、三線を弾きたくて、人に会いたくて、ここへ来た。でも、大勢のお客さんの前で、ライブまがいのことをしたいと思って来たわけじゃあないんだけど。けど、ちょっと嬉しいかな。ボクは席にカバンを置いて、入口近くの壁から三線を取ってきた。店主が、できあがった料理を持ってカウンターから出てきた。

 「何でもいいんですよね」
 「最初から唐船どーいーってのは、やめてね」
 「あ、・・・」
 「そのつもりだったの?」
 「はい。あ、いえ。最初ですもんね。じゃあ、えっと」
 「『てぃんさぐぬ花』がいいよ。お願い」

 そう言って、テーブル席にその皿を持って行った。
 できるだけ静かに調弦をした。でも、調弦を始めた途端、今まで気ままなおしゃべりをしていたお客さんが、静かになった。そして拍手だ。BGMなんかじゃない。もうすっかりライブだよ。
 カウンターに向かって弾くつもりだったけど、お客さんがこっちを向いているのにボクがそっぽ向いているってのも失礼だよね。で、お客さんの方を向いて演奏することにした。うわっ。視線が痛いよ。

 歌持を始める。手が震える。手だけじゃない。声も震えていた。ちょっと調弦が高かったかな。声が裏返りそうだ。
 一番を歌い終わって、少し自分を取り戻した。お客さんの様子が見えてきた。右端のテーブルの人は、頬杖をついて静かに聞いている。その隣のテーブルのお客さんは、時々こちらを指さしたりしながら、小声で話をしている。カウンター席のお客さんは、グラスを手に持ったまま目を閉じて体を揺らしていた。なんだ、ボクの歌もけっこういけてるのかもしれないぞ。
 三番まで歌いきった。演奏が終わると、大きな拍手だ。ああ、緊張したー。でも、なんて気持ちいいんだ。

 店主がこっちを向いて、指を一本立てて、口を動かしている。もう一曲?へへえ。言われなくても、もう一曲弾きたい気分だった。ボクは大きく頷いて、本調子にした。次はもちろん『花』だ。
 『花』を始めると、お客さんから手拍子が起こった。小さな声で口ずさんでいる人もいる。だんだん盛り上がってきた。サビの部分では、全員の合唱になった。ボクは興奮していた。あの結婚披露パーティーの記憶が甦った。

 『花』が終わったとき、店主がカウンターから出てきた。壁からもう一つの三線を取って、手早く調弦しながらボクに耳打ちした。

 「ここで唐船どーいーでしょう」

 店主が『唐船どーいー』の歌持を始めた。ボクも一緒に弾いてしまった。と、お客さんが立ち上がった。踊り始めたよ。演奏は店主に任せるべきだったかな。でも、途中でやめるのもおかしいよね。まだ歌持を繰り返しているとき、店主がボクに向かって顎を突き出した。え?何?また顎を突き出した。ボクに歌えってこと?店主は歌わないの?笑ってるよー。


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