おたおた (2) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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「あんたが先生ねー。よろしくお願いします」
トヨさんは、小柄だけれど足腰も丈夫そうでとても元気だった。ボクとトヨさんは、店主たちの隣のテーブルに移動して向かい合わせで座った。トヨさんは、店主のテーブルに背中を向けた格好。ボクからはトヨさんの向こう側に店主たちが見える。 三線を用意してもらう。古びたケースの中から、古びた三線が出てきた。塗りが所々剥げている。弦も古くて、色が変わってしまっている。ボクはまず、弦の取り替えから始めた。トヨさんには申し訳ないけれど、暫く待ってもらうことになる。 「あ、弦は取り替えておくよ」 店主が、トヨさんの背後から手を伸ばして、三線を受け取った。変わりに店主が使っていた三線をトヨさんに渡した。勘所シールが貼られてあった。これは便利だ。 「えっと、じゃあ、最初は、」 「あのね、先生。『とうがにあやぐ』を教えてちょうだい」 「何です?」 店主が、弦を取り換える手を止めてこちらを見た。トヨさんの背中に向かって話しかけた。 「トヨさん、宮古のかたですか?」 「はいはい。宮古ですよー」 アキちゃんが、店主に声をかけた。まだトヨさんの背中を見つめたままだ。 「宮古島の歌なんですか?その『とうがにあやぐ』って」 「うん」 店主は、助けを求めるような目をナンちゃんに向けた。ナンちゃんは首を横に振った。そして「タカさんも、無理だろうな」と呟いたきり、黙ってしまった。 どうやら、だれにも教えられない曲らしい。みんなが困っている。でも、トヨさんはみんなの様子も気にならないようで、ボクの前に笑顔で座ったままだ。ボクは、トヨさんの頭越しに、店主に尋ねた。 「むずかしい曲なんですか?とっても早い曲だとか?」
店主は、トヨさんの背中に少し頬笑みかけてから、ボクの方を向いて説明をしてくれた。 「問題は、発音なんだよ。宮古島の歌は、発音が難しいんだ」
アキちゃんが首をすくめた。ナンちゃんが溜息をついた。ボクは店主に質問を続けた。
「え?」 店主が驚いてボクの目を見た。アキちゃんもナンちゃんも、きょとんとしている。 (3)へ |