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おたおた (2)
ふらふら
いそいそ
かりかり
おたおた
(1)
(2)
(3)
(4)
どきどき
きらきら
ぽつぽつ
とんとん
こつこつ
わいわい
いらいら
ずきずき
ひしひし
わくわく
ゆるゆる
 「あんたが先生ねー。よろしくお願いします」
いや、先生だなんて、とにかく、最初はボクが。あとは皆さんの方がうまいですから、みなさんから教えてもらってください」

 トヨさんは、小柄だけれど足腰も丈夫そうでとても元気だった。ボクとトヨさんは、店主たちの隣のテーブルに移動して向かい合わせで座った。トヨさんは、店主のテーブルに背中を向けた格好。ボクからはトヨさんの向こう側に店主たちが見える。
 三線を用意してもらう。古びたケースの中から、古びた三線が出てきた。塗りが所々剥げている。弦も古くて、色が変わってしまっている。ボクはまず、弦の取り替えから始めた。トヨさんには申し訳ないけれど、暫く待ってもらうことになる。

 「あ、弦は取り替えておくよ」

 店主が、トヨさんの背後から手を伸ばして、三線を受け取った。変わりに店主が使っていた三線をトヨさんに渡した。勘所シールが貼られてあった。これは便利だ。

 「えっと、じゃあ、最初は、」
 「あのね、先生。『とうがにあやぐ』を教えてちょうだい」
 「何です?」

 店主が、弦を取り換える手を止めてこちらを見た。トヨさんの背中に向かって話しかけた。

 「トヨさん、宮古のかたですか?」
 「はいはい。宮古ですよー」

 アキちゃんが、店主に声をかけた。まだトヨさんの背中を見つめたままだ。

 「宮古島の歌なんですか?その『とうがにあやぐ』って」
 「うん」

 店主は、助けを求めるような目をナンちゃんに向けた。ナンちゃんは首を横に振った。そして「タカさんも、無理だろうな」と呟いたきり、黙ってしまった。
 どうやら、だれにも教えられない曲らしい。みんなが困っている。でも、トヨさんはみんなの様子も気にならないようで、ボクの前に笑顔で座ったままだ。ボクは、トヨさんの頭越しに、店主に尋ねた。

 「むずかしい曲なんですか?とっても早い曲だとか?」
いや、難しい曲なんだけれど、早弾きじゃない。三線を弾くのは問題ないとして」

 店主は、トヨさんの背中に少し頬笑みかけてから、ボクの方を向いて説明をしてくれた。

 「問題は、発音なんだよ。宮古島の歌は、発音が難しいんだ」
宮古島って、沖縄ですよね。みなさん、いつも歌っているじゃないですか」
沖縄といっても広いんだよ。いろんな方言があるんだ。宮古島の歌をきちんと歌える人は、ここにはいないんだよ」

 アキちゃんが首をすくめた。ナンちゃんが溜息をついた。ボクは店主に質問を続けた。

問題は方言ですよね。宮古島の方言が難しいんですよね」
そう。『とうがにあやぐ』は歌そのものもむずかしい。でも、難しいっていう点では、宮古民謡だけが特別難しいというわけじゃあない。問題なのは方言なんだ」
 「だったら、問題ないですよ」
 「え?」

 店主が驚いてボクの目を見た。アキちゃんもナンちゃんも、きょとんとしている。


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