ぽつぽつ (3) | ||||||||||||||||||||||||
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帰りの車では、しばらく沈黙が続いていた。でも、おじいさんの話を聞かないわけにはいかなかった。 「おじいさんも、宮古島のご出身ですか?」 「そう。オジイは久松の人」 久松というのは、宮古島の地名なのだろう。 「じゃあ、ご結婚も宮古島で?」 「そうさー。五年前まで宮古島にいたんだのに」 「そうでしたか。一緒に馬に乗ったりして」 「アハハハ。馬はいないよ。車に乗っていた。アハハハ」 笑ってくれた。昔のことを思い出すのは、きっと楽しいことに違いない。ほっとした。 「オジイはよく働く人で、キビ畑もうちと二人でやっていたよ」 「キビって、サトウキビですか?」 「そう。宮古のキビ倒しも、そろそろ終わる頃かねえ」 キビ倒しとは、サトウキビの収穫のことらしい。冬場の作業だそうだ。 「大変なんでしょうね」
三線すら、弾けません・・・ 「サトウキビ畑で、また働きたいでしょうね」 「いや。あまり儲からんし、やりたくない。アハハハ」 「儲からない仕事ですか」 「でも、二人で仕事しているときが、楽しかったね」 少ししんみりしてしまった。 「そうでしょうね」
その後、息子さん夫婦の勧めに従ってこの街に引っ越してきた。それが五年前。息子さんは一緒に住もうと言ってくれたらしいが、 「気を使うのもいやだし、いろいろね」 それ以上は話が続かなかった。おそらく、体調を崩したおじいさんだけが南星園へ。トヨさんはアパート暮らしを続けているということなのだろう。トヨさんも南星園で暮らすということは考えなかったのだろうか。元気な間は自分の力で生活したいと思うのだろうか。おじいさんの容態はどうなんだろうか。息子さん夫婦は、お見舞いに行っているのだろうか。そして、いつまでに歌を覚えれば「間に合う」のだろうか。どれもトヨさんの口から話してもらうには、あまりにも辛いことのように思えたんだ。 「ありがとうね。また、お願いしますね」 トヨさんは、車のドアを元気に閉めた。 「とんとん」へ→ |