ゆるゆる (2) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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トヨさんの話を聞いて、みんな大笑い。アキちゃんは膝を叩いて笑っている。あのナンちゃんまで、下を向いて肩を震わせているよ。笑っていないのはボクだけだ。隣に座っていたドクが、笑いながらボクの肩に手を置いてこう言った。
ドクがボクを揺さぶった。ボクは黙って聞いていた。 「間に合って、よかったですよねー。先生のおかげですねー」 アキちゃんがボクの方を横目で見ながら言った。店主が続く。 「先生がいいから、あと五十曲は覚えられるんじゃないか」 トヨさん夫婦は、息子夫婦に呼ばれて宮古島からこの街にやってきた。でも、一緒に暮らすのにはいろいろと問題があって、結局二人とも南星園に入ることにした。これは、本人たちの希望で入ったそうだ。ところが、困ったことにそこで夫婦げんかが始まる。トヨさんはおじいさんを南星園に残して一人暮らしを始めてしまった。 「で、なんでおじいさんに歌を聞かせたいと思ったんです?」 店主の質問にトヨさんが答えた。喧嘩をしたとき、おじいさんが『おまえは、何のとりえもない』みたいなことを言ったそうだ。それで、トヨさんは三線を練習して、おじいさんに聞かせて見返してやろうと考えたんだ。 ドクがトヨさんに話しかけた。
もともと、ちょっとした行き違いで別居を始めたわけで。本当に嫌いになっていたら、歌を聴かせようと言う気にもならなかっただろう。一緒に暮らすのも、時間の問題って感じだ。
と、ドク。みんなの視線をしっかりと集めてから言葉を続けた。 「オレ、店主が泣いたところを初めて見たよ」 「えー、店主、泣いたんですかー」 店主の顔色が変わった。漫画にしたら「ギクッ」という文字が顔の横に大きく書かれるに違いない。 「そんな・・・いや・・・まさか。泣くわけないよ」 「きゃー、見たかったなー」 「泣いていないって」
さらにドクが続ける。
「いいや、泣く。賭けてもいい」
「どこにしますー?」
ホールを借りて発表会か。って、この人たち、もうやる気になってるし。 「うちも出してくれるかね。今度は、踊りもやりたいさー」 ありゃー、トヨさんまで乗り気だよ。 「トヨおばあ、踊りって、カチャーシーじゃなくて?」 「カチャーシーもいいけれど、クイチャーも楽しいよ」 「クイチャー?」 「ニノヨイサッサイ、ヒヤササ」 トヨさんが立ち上がって、踊り始めた。アキちゃんと店主が顔を見合わせてから、トヨさんの後ろに続いて一緒に踊り出した。ボクも急いで立ち上がった。ドクがナンちゃんを引っ張って踊りに加わった。テーブルを取り囲むように、みんなが輪になって飛び跳ねた。どの顔も笑っていた。 ボクは踊りながら、考えていた。 S.W.L.って、何の略なんだろう? |
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おわり(2005年6月) |