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ゆるゆる (2)
ふらふら
いそいそ
かりかり
おたおた
どきどき
きらきら
ぽつぽつ
とんとん
こつこつ
わいわい
いらいら
ずきずき
ひしひし
わくわく
ゆるゆる
(1)
(2)
先生は一生懸命教えてくれているのに、なかなかうまくならないでしょ。だから、うちが生きている間に覚えられるかねーと思って、間に合うかねーと言ったわけ」

 トヨさんの話を聞いて、みんな大笑い。アキちゃんは膝を叩いて笑っている。あのナンちゃんまで、下を向いて肩を震わせているよ。笑っていないのはボクだけだ。隣に座っていたドクが、笑いながらボクの肩に手を置いてこう言った。

なるほど。それを、おじいさんが死にかけていると勘違いしたってわけ。ふーん。ハハハ」

 ドクがボクを揺さぶった。ボクは黙って聞いていた。

 「間に合って、よかったですよねー。先生のおかげですねー」

 アキちゃんがボクの方を横目で見ながら言った。店主が続く。

 「先生がいいから、あと五十曲は覚えられるんじゃないか」

 トヨさん夫婦は、息子夫婦に呼ばれて宮古島からこの街にやってきた。でも、一緒に暮らすのにはいろいろと問題があって、結局二人とも南星園に入ることにした。これは、本人たちの希望で入ったそうだ。ところが、困ったことにそこで夫婦げんかが始まる。トヨさんはおじいさんを南星園に残して一人暮らしを始めてしまった。

 「で、なんでおじいさんに歌を聞かせたいと思ったんです?」

 店主の質問にトヨさんが答えた。喧嘩をしたとき、おじいさんが『おまえは、何のとりえもない』みたいなことを言ったそうだ。それで、トヨさんは三線を練習して、おじいさんに聞かせて見返してやろうと考えたんだ。 ドクがトヨさんに話しかけた。

なるほどね。おじいさんに『まいった』と言わせたかったんだ。で、『まいった』って言いました?」
言わんけど、歌は上等と言いよったよ。三線を自分に教えなさいとも言いよった」
 「こりゃすごい。アハハ」

 もともと、ちょっとした行き違いで別居を始めたわけで。本当に嫌いになっていたら、歌を聴かせようと言う気にもならなかっただろう。一緒に暮らすのも、時間の問題って感じだ。

準備から本番まで、いろいろなことがあったけれど、驚いたことと言えばだ」

 と、ドク。みんなの視線をしっかりと集めてから言葉を続けた。

 「オレ、店主が泣いたところを初めて見たよ」
 「えー、店主、泣いたんですかー」

 店主の顔色が変わった。漫画にしたら「ギクッ」という文字が顔の横に大きく書かれるに違いない。

 「そんな・・・いや・・・まさか。泣くわけないよ」
 「きゃー、見たかったなー」
 「泣いていないって」
恥ずかしいことじゃないと思うんだよね。感動して、涙を流す。それって、自然なことなんだよね」
 「だから、泣いていないってば」
絶対に泣いてた。カチャーシーが終わって、全員で客席にお辞儀をしただろ?あのとき、顔を上げる前に、涙を拭いていたよ。間違いない」
 「店主って、クールに見えて、内面は情熱的なのかもー」

 さらにドクが続ける。

ま、年のせいで涙腺が弱くなっているってこともあるかな。もし、もう一度ライブをやったら、また泣くに違いないぜ。ライブをやるたびに泣くと思うよ。必ず泣くね」
 「そんなことない。泣かないって」
 「いいや、泣く。賭けてもいい」
キャー、だったら、もう一回みんなで舞台をやればいいですよねー」
いいねえ。もし店主が泣いたら、そのときは打ち上げを店主のおごりにする」
 「いいよ。でも絶対泣かないから」
 「どこにしますー?」
施設訪問もいいけど、どこかを借りてやってみたいよな。いろんな人が見に来られるようにさ」
 「それ、夢だよね。小さなホールを借りてやってみたいよね」

 ホールを借りて発表会か。って、この人たち、もうやる気になってるし。

 「うちも出してくれるかね。今度は、踊りもやりたいさー」

 ありゃー、トヨさんまで乗り気だよ。

 「トヨおばあ、踊りって、カチャーシーじゃなくて?」
 「カチャーシーもいいけれど、クイチャーも楽しいよ」
 「クイチャー?」
 「ニノヨイサッサイ、ヒヤササ」

 トヨさんが立ち上がって、踊り始めた。アキちゃんと店主が顔を見合わせてから、トヨさんの後ろに続いて一緒に踊り出した。ボクも急いで立ち上がった。ドクがナンちゃんを引っ張って踊りに加わった。テーブルを取り囲むように、みんなが輪になって飛び跳ねた。どの顔も笑っていた。

 ボクは踊りながら、考えていた。

 S.W.L.って、何の略なんだろう?


                    
おわり(2005年6月)

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