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「三線は、嫌い?いいよー沖縄の三線。はまっちゃうよー」
嬉しそうなおじいさんの顔を見て気づいたんだ。あ、そうか。そういうことか。このおじいさん、三線をくれるんだ。宝くじや車はだめでも、三線は出せる。というよりも、三線以外は出せないんだなきっと。そうだよね。糸巻きから出てきたんだから三線だよね。ごめん。気が利かなかったね。ま、ボクとしても、何ももらえないよりも三線でももらえればうれしいし。弾けなくても飾っておけるし。
「じゃあ、わかりました。はい。三線にします。お願いします」
「よし。そこまで言うのなら」
って、あんたが言わせているんですけど。とにかくやっと話がついた。もう、このおじいさんとの会話もお腹いっぱい。三線をもらって、ボクもおじいさんも満足してさようなら。めでたしめでたしってわけだ。
ところが、その次の言葉に驚かされたんだ。
「では、また明日、」
でもって、消えちゃった。
「え?明日?」
ボクの部屋は、いつものように静かになった。おじいさんはどこにもいない。
「ねえ、なんで明日なの。ねえ、ちょっと!」
ボクは、棒に向かって怒鳴っていた。返事はない。もう一度棒を擦ってみたけれど、何も起こらない。
溜息を一つ付いて、さっきまでおじいさんの座っていたテーブルの向こう側を見た。左手に缶ビールが触れた。残ったビールを飲み干した。ぬるくなっていた。
とにかく今日は疲れたから、考えるのをよして、シャワーを浴びて寝ることにする。
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