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夜は少し冷える。駅から二十分の距離を早足で家に帰ると、カバンをキッチンのテーブルの上に置いた。ネクタイを緩めながら、冷蔵庫から取り出した缶ビールを開け、手を腰に当てて、一口。あ〜うまい。
その時、背中から声をかけられた。
「おかえり」
ビールを吹き出しそうになったけれど、なんとか飲み込んだ。少しだけ鼻から出てきた。
振り返ると、テーブルの向こう側に、ちょこなんと座っているのは、昨日のおじいさんだ。
「ただいま」
返事しちゃった。
「じゃあ、始めるか」
始めるか?ああ、三線の話だ。昨日の夜の約束だよ。よし。三線もらって、早くこのおじいさんとおさらばしよう。
ボクはビールをテーブルに置いて、椅子に腰掛けた。昨日と同じだ。さて、白い煙がポンと上がって、三線がテーブルの上に現れるのか。それとも、おじいさんが気合いと共に空中から掴み出すのか。ちょっとワクワクしながらおじいさんを見つめていた。
「早く準備しなさい」
準備?三線をもらうのに何の準備が?あ、そうか。テーブルを片づけろってことか。ボクは、缶ビールを冷蔵庫に戻し、缶ビールの水滴で濡れた跡もティッシュペーパーで拭いた。
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