第二章 (1) | ||||||
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購入者には、店員さんが一時間ばかり手解きをしてくれるらしいのだが、ボクにはポケットの中に糸巻き、じゃなかったおじいさんがいる。とにかく、三線を買って家に戻ることにする。 ソフトケースを抱きかかえるようにして列車に乗った。なんだか、人の目が気になる。気になるといっても、視線がいやなわけじゃなくて、見られるのがちょっと嬉しいんだ。だれかが声をかけてこないかな。声をかけてくれたら「これ、ボクの三線なんです」って、見せてあげるのにな。でも、声をかけてくる人はいなかった。そりゃそうだよね。 列車の窓から、暮れかかった景色を見ながら考えていた。最初は、どうしてこんなものを買わされなきゃならないんだろうってあのおじいさんに腹が立ったけれど、今は違う。自分のお金で楽器を買うなんて初めてだ。このワクワク感。子どもの頃に返ったみたい。早く触りたいよ。 部屋の明かりをつけるとおじいさんが現れた。 「おかえり」 「あ、ただいま」 おじいさんは、いつもの椅子に座ってすっかりくつろいでいるように見える。ボクの部屋なんだけど。まあいいよ。今日はずいぶん高い買い物をしたんだ。これから三線のことをしっかり教えてもらうからね。 三線のケースと紙袋をテーブルに置いて、ケースのファスナーを開けた。あ、三線店のあの匂いがする。三線を取り出そうとして、裏返しなのに気づいた。しまった。もう一度ファスナーを閉めて、ケースごと裏返して、三線をそっと取り出した。ハハハ、ボクの三線だよ。ピカピカだよ。 三線店でやったみたいに、弦に触ってみた。なんだかおかしい。お店ではビーンと震えてくれたのに、今は震えもしないし音も出ない。まさか、壊れたのかな。 (2)へ |