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第五章 (1)
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エピローグ
 三日目の夜だった。
 三線を用意した。いつものように、まずウマを立てた。そして調弦。チューナーとコンタクトマイクで合わせてみた。女弦が少し違っているみたいだ。オジイが言っていた。新しいのは、弦が伸びやすいって。もうすこし巻いてみよう。「E」が出た。「EFGABC」だから、もっと巻くんだ。と、糸巻きをくいっと回したとき、

 「ビン!」

 変な音がして、何かがボクの左手に当たった。少し、背中が寒くなった。恐る恐る三線を見ると、三線から髭が出ている?違う違う。弦が切れたんだ!うわー、どうしよう。
 前を見ると、いつのまにかオジイが座っている。ぼくは、何故か三線を隠そうとした。子供の頃に、父さんの大切なカメラを壊してしまったときのような、そんな気分だった。

 「あの、これ、切れちゃって・・・」

 テーブルの上に三線をそっと置いた。オジイは、何も言わずに三線ケースを指さした。そうだ、予備の弦をもらったんだ。切れたのは女弦。三本の予備の弦の中から、一番細いのを用意した。
 取り替えは緊張したよ。だって、初めてだもの。うまく結べなかったらどうしようって。でもね、隣の弦を見れば結び方はすぐにわかった。コツというほどのもではないけれど、新しい弦を丁寧に伸ばすことと、下の方を結んでから糸巻きに巻き取ること。くらいかな。
 少し時間はかかったけれど、一度経験をしておけばもう恐くはない。いつでも切れてちょうだい。切れて欲しいわけじゃないけどね。
 さて、三線を構えて、調弦のためにコンタクトマイクを取り付けようと思ったら、

 「駄目じゃ!弦をよく伸ばしておくんじゃ」

 今取り換えた女弦は、他の弦と一緒に仲良く並んでいる。すぐに調弦をして練習したいのに、弦を伸ばせ?何のことかと思ったら、オジイの話はこうだった。
 弦は取り換えたときには「伸ばす」という作業をしなければならないらしい。きちんと伸ばしておかないと、調弦がうまくいかないんだって。きちんと伸ばしてあっても、しばらくは弦が伸びやすくて、つまり、調弦がずれやすいんだそうだ。
 弦を伸ばすのは、弓を射るように引っ張るわけじゃない。弦を四本の指で包んで、親指で弦を押さえ、肩こりのツボを押さえるような感じでぐいっとやる。うん。たしかに伸びているような気がする。ウマの近くから糸巻きの近くまで、全体をしっかり伸ばす。なるほど勉強になった。失敗もしてみるもんだね。

 そうそう、ボクが弦を切った原因は、「4C」を越えて弦をひっぱったからのようだ。ボクが「E」の表示を見たとき、「4E」だったらしい。下げて「4C」にすべきなのに、ボクは上の「5C」へ向かって巻続けた。切れるわけだ。反省。


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