直線上に配置
プロローグ (1)
プロローグ
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
プロローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章
第八章
第九章
エピローグ
 仕事から帰ってきて郵便受けの中に手をつっこむ。封筒が手に触れた。不動産屋のダイレクトメールと携帯の請求書だった。嬉しくないね。残っているものはないかともう一度手を入れたら、出てきたのがこの棒だ。

 キッチンのテーブルに、カバンとダイレクトメールと請求書と棒を置いて、冷蔵庫から缶ビールをとる。夏が過ぎても、冷えたビールはうまいよね。おっと、カレンダーがまだ九月のままだよ。やぶいてまるめて、ゴミ箱へ。ついでにこの棒も捨てようかと、ダーツよろしくゴミ箱をねらったんだけれど、なんとなく捨てるのをやめた。よく見ると、面白いデザインだ。長さ十五センチほどで、先端が細くなっている。

 「どこかで見たことあるような、ないような・・・」

 ボクは一人暮らしだ。話し相手もいないのに声を出してしまうのは、ボクの癖だ。
 左手に缶ビールを持ったまま、棒を観察した。細くなった部分には小さな穴が開いている。何のためなのか?考えてもわかるはずがない。太い部分は丸ではない。溝がほられていて、もし輪切りにしたら星形になるはずだ。太い方の先端に近いところで白と黒に塗り分けられているように見えたのだけれど、よく見ると、黒い木に白いプラスチックか何かを接いであるらしい。その白い部分がすすけたようになっている。だから、正確には「白かった部分」と言うべきだね。
 汚れたところを指で擦ってみた。棒の方はあまりきれいにならなかったのに、指はしっかり汚れた。

 「あらー、すごいなこの汚れは」

 一人暮らしなのに、また声をだしてしまった。
 キッチンのシンクで手を洗おうとして立ち上がったとき、テーブルを挟んで正面に座っているおじいさんと目が合った。薄茶色に黒の縦縞が入った薄い着物を着て、背筋を伸ばしてこちらを向いている。くどいようだが、ボクは一人暮らしだ。

(2)へ

トップページへもどる
直線上に配置