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エピローグ
 「駄目じゃ!もっと大きな声で」

 金曜日の夜。仕事仲間から飲みに行こうと誘われたけれど、断ってしまった。三線が弾きたくて。もしかすると、三線のおかげでお金が貯まるかもしれないな。それと、おじいの「駄目じゃ」のおかげでストレスも溜まりそうだ。

 「でも、恥ずかしいし・・・」
何を言っておる!歌は人に聞かせるもの。恥ずかしいなんて言ってはいかん!」

 ここで「人のためじゃない。自分のために歌っているんだ」って、反論してもよかった。ボクは、人前で歌って目立ちたい方ではない。そもそも音楽は苦手なんだから。でも、三線を手にしてからは、誰かに聞いてもらいたいという気持ちも少し出てきたような気がする。人に聞かせるっていうのは、たぶん、相手のためでもあり、自分のためでもあるんだろうね。
 といっても、オジイと練習するのはいつも夜だし、この部屋で大声を出して、ご近所に無理矢理聞かせるというのはよくないよ。今まで築いてきたご近所との良好な関係を崩したくないもの。ボクはオジイの後ろの壁を見ながら、壁の向こう側で耳を塞いでいる隣のおばさんを想像してしまった。

 「近所迷惑だから・・・」
 「ふん。うまく逃げおって」

 その時、思いついたんだ。いっそのこと、人前に出て練習してしまうってのはどうだろうってね。これは名案だよ。


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