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エピローグ
 立ち上がろうとした姿勢のまま、つまり、おしりがキッチンの椅子から握り拳一つ分浮いた状態で、ボクはおじいさんの顔を見つめた。見つめながら、家に帰ってからのことを思い返した。ドアのカギはボクが開けた。部屋に入ったときにも、特に変わったことはなかった。冷蔵庫から缶ビールを出したときも、カレンダーを破いたときも、ボク以外にはだれもいなかった。そして、キッチンのテーブルの上に置いてあったこの棒を手に持った。捨てようとしたけれど、思いとどまった。汚れていたから指で擦った。おじいさんが出てきた。

 ボクは、おじいさんから棒に視線を移動させた。そして、またおじいさんを見て、棒を見て、おじいさんを見て、こう言ったんだ。

 「どうも・・・こんばんは」

 そんなばかな?そうだよね。でもね、ランプを擦って魔神が出るなら、この棒からおじいさんが出たっていいかな。そんな気がしたんだ。
 この不可解な状況の中で、ボクが次に考えたのは、こうだった。
 ランプでもなんでも、擦って出てくる人は何か願い事を叶えてくれるんじゃないか。
 ね。誰だって期待するでしょ。すると、おじいさんは頷くように会釈してから、静かにこう言ったんだ。

 「願い事を言ってみなさい。一つだけ叶えてあげよう」

 ほぼ期待通りだった。「ほぼ」を付けたのは、叶えてくれる願いが一つだってところ。普通三つでしょ?けれど、まあ、お年寄りだしね。一つだけでも叶えてくれるならうれしいことだよね。で、こういう時のためのとっておきのお願いをしてみたんだ。

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