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第八章 (7)
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第九章
エピローグ
 窓から差し込む夕日が冷蔵庫に反射している。ボクは、カバンの中から糸巻きを出して、テーブルに置いた。糸巻きを見ながら、オジイとの二ヶ月間を思い返していた。気がつくと、テーブルの向こうにオジイがいた。

 「オジイ」
 「練習はどうだった?」
 「うん。調子いいみたい」
 「そうか。いよいよ本番。楽しみじゃろ」
 「うん」
 「今までよくがんばった」
 「うん」

 そんなこと、言ってくれたことなかったよね。

 「ま、すべてわしのおかげじゃな」
 「うん」

 その通りだよ。

 「最後のおさらいをしよう。ここで聞かせてくれ」

 最後って何。

うん。今日くらい家の中で声を出しても、いいよね。明日本番だし」
 「待ちなさい。それ」

 オジイが、三線に貼ってある勘所のシールを指した。そうだった。人前で演奏できるようになったら剥がすんだ。久しぶりにシールを見たような気がする。数字が消えかけていた。シールを剥がしたあとを、指で擦ってみた。オジイを見た。微笑んでいた。

 「きれいになったな」
 「うん」

 ボクは立ち上がった。オジイの後ろにある壁を見つめながら、ボクは歌った。二曲とも、止らずに歌えた。

 「よしよし。完成としよう。本番もその調子でな」

 変だよね。変に優しいよね。
 歌うのはそれきりにして、あとは一人で三線を練習した。もう間違えることはなかった。顔を上げたら、オジイはいなかった。シールの無くなった三線を、ボクはケースに入れた。


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