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第六章 (5)
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エピローグ
 「で、名前を聞いたのか?」

 その夜、オジイに河川敷のことを話した。

 「いえ・・・聞けなかったです」
 「へっ。小心者」

 否定できなかった。

 「練習の方は?」
 「家の中でやるよりも、ずっと良い感じです」

 練習が終わってからこうしてオジイに報告をすることが、今日の練習の反省にもなる。

 「明日も行ってきます」
いいか、ただ歌うだけではいかん。目標を持つことじゃ。今日は、大きな声を出すという点で合格。次は、止らずに最後まで。それができたら、なめらかに。そして、思うがままに。自分で自分を試しながら次に進むように」

 よくわからないけれど、なんとなくわかる。とにかく声をだした。そして、次は途中で止らないようにもっと慣れろと言うことだろう。それができたら、ただ演奏するだけじゃなくて、内容を考えろってことだね。

 「明日は、止まらずに最後まで。やってみます」

 次の日も昨日と同じベンチで練習をする。ただ、正座をする向きを逆にしたんだ。もしかしたら、あの彼女がまたやってくるかもしれない。そのときに、斜め後方からではなくて、前方に見えるようにだ。
 でも、この日は会えなかった。午前中に、子どもから「それ、なーに?」と言われたのと、午後、年配の女性が連れていた犬に吠えられただけだ。
 練習の成果はあった。昨日よりも確実に進歩していると、自分でも感じる。家で練習するよりもずっといい。何より、緊張感があるよ。最後まで止らずに歌い切れたこともあった。まだまだ低い打率だけれど。


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