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第四章 (4)
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第四章
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エピローグ
 オジイの話はおもしろい。でも、話を楽しんでいる場合じゃない。
ってことは、やっぱり三線の音がご近所に聞こえているんですよね。迷惑かけちゃってるよなあ」
迷惑なんかじゃない。みんな楽しんでいたんだ。オジイは村の有名人だったぞ」
 「いえ、オジイの話じゃなくて、今の、ここでの話」
ああ、そうか。うん。迷惑だろうな。おまえは下手だし」

 傷つくね。

三線を買ったときに、店員さんが言っていたんですよ。音を小さくするウマがありますよって。買っておけばよかったなあ」

 今から一時間半かけて買いに行くのも辛い。行ったとしても店が閉まっているだろうし。買うのは明日、仕事帰りとして。で、今日の練習はどうしよう。ああ、できないとなると、余計にやりたくなってしまう。弾きたい。弾けない。弾きたい。弾けない。

 「割り箸、あるか?」

 この非常時に、なぜ割り箸なのかはわからないけれど、ボクはシンクの引き出しから割り箸を取り出した。

いや、割ってはいかん。そのままで、三線のウマをはずしてその割り箸を立てる」

 ふざけているのかと思った。ウマの代わりに割り箸を立てるなんて。それで弾いてみろと言う。言われたとおり弾いてみると、

 「え?あれ?へー。いいですね」
 「いいじゃろ。ふふん」

 得意げなオジイ。ウマを割り箸に変えたら、音が小さくなった。驚くほど小さく。これなら近所迷惑にもならないだろう。そのままチューナーで調弦を確認した。チューナーとコンタクトマイクの組み合わせは、割り箸で音を小さくしても問題ないようだ。たぶん、三線の振動を直接拾っているからだろう。

ただし、音が小さくなっても、弾き方はいつもと同じようにな」

 音が小さくなると、どうしても強く弾こうとしてしまうんだね。なるほどね。さすがはオジイ。的確なアドバイスだね。
 割り箸消音ウマを装着した三線で、昨日のタブ譜は簡単にクリア。

 「まあまあだな。格好はずいぶんよくなった」

 めずらしい。誉められちゃった。

 「点数をつけると?」
 「80点」
おお!すごい。で、後はどんなところを注意すればいいですか?」
そうだな。あとは、もう少し肩の力を抜いて、左手をやや下げ、右肘を開きすぎないようにして、三線をまっすぐ前に向け、ピックを滑らかに動かし、きれいな音が出せれば完璧だ」

 ・・・結局、全部だめってことじゃないか。また傷ついたよ。

ま、すべてができるようになってから前へ進むのではなくて、前に進みながら全体をまとめていく。そういうつもりでな」

 そうだよね。昨日教わったことが、今日すべてできているなんてありえないよね。オジイの言葉には、説得力があるよ。


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