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第九章 (3)
プロローグ
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第九章
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エピローグ
 舞台のプログラムは六番になった。ボクは楽屋へ向かった。三線を用意して、舞台の横で待っていた。

 ボクの前のプログラム「七番」は、やっぱり余興で、新婦の親族一同となっていた。小さな子どもが七人と、その母親らしい大人が二人と、きれいな白髪のおばあさんが一人。全員で歌っていた。沖縄の歌らしいが、ぼくにはわからない歌だった。歌い終わると大きな拍手が送られていた。拍手が鳴りやむ前に、子どもは恥ずかしそうにこちらへ駆け戻ってきた。それを追うように母親らしい二人も戻ってきた。おばあさんは一人舞台に残っている。どうしたのかと思っていると、舞台中央のマイクに近づいて、静かに語り始めたんだ。会場の係の人が、マイクの高さをおばあさんに合わせに走ってきた。

 聞き取りにくい言葉だったけれど、内容はわかった。今日はどうもありがとう。うちの孫のために集まってくれて。長生きをして、本当によかったと思います。こんなに大勢のみなさんに祝っていただいて、うちの孫は幸せ者です。私も幸せです。
 おじぎをするおばあさんに、会場からわれんばかりの拍手だ。おばあさんは、もう一度おじぎをして、こちらに戻ってきた。楽屋のみんなも拍手していた。ボクは、なんだか感動していた。
 今まで見てきた結婚披露宴は、職場のえらい人とか友人の代表とかが型どおりのあいさつをするだけ。みんな招待されたから来ているって感じで、感動とか笑いとかそういうものとは縁が薄かったように思う。でも、今日のこのパーティーはどうだ。みんなが参加している。みんなが楽しんでいる。ずっと笑顔が絶えないんだ。人が集まって祝うというのは、こういうことなんだ。そして、その中にボクもいるんだ。そう思うと、胸が熱くなった。

 舞台には、だれもいなくなった。あ、ボクの番だ。熱くなった胸から、心臓が飛び出しそうだ。


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