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一度楽屋から外に出て、会場を見に行った。受付から直接楽屋に行ったものだから、会場の様子はよくわからなかったんだ。
長い廊下を戻りながら考えていた。ボクの想像では、三十人程度のパーティーでこぢんまりと、だ。でも、楽屋にいた人だけで、二十人は越えている。そして、目の前の受付に並んでいる人が十人ほど。社長さんの言うごく内輪のパーティーって、いったい何人集まるんだろう。
ボクは、受付に並ぶ人の横をすり抜けるようにして会場に入った。会場全体が見渡せた。
「な、なんてこったい」
広い。とんでもなく広い。しかも、会場内に並んでいるのは、ありえないはずの「中国料理の丸テーブル」。それが二十はある。一つのテーブルに七人、いや八人座れるようだ。かけ算をすると百六十人。これが「ごく内輪」の人数なのか?右手の奥には、なんと舞台まで設えてある。
ボクはもう一度プログラムを開いた。間に挟まれている小さな紙には「十六番」と書かれている。ボクは十六番のテーブルへ向かった。
やがてパーティーは始まった。テーブルの上には、料理が次々と運ばれてくる。食事と同時進行で目の前では余興、余興、また余興。その内容がすごい。一つはフラダンス。フラダンスには、年齢制限はないんだろうか。もう一つは「愛の劇場」とかいう、二人の出会いを寸劇にしたもの。少々下品じゃないかと思ったけれど、会場は大爆笑だった。次の手品では、お客さんのネクタイをハサミで切って、元に戻すって言ったのに元に戻らなかった。
これが結婚披露パーティーだって?かくし芸大会じゃないか。想像していた、かっこいい「社長さんのパーティー」は完全に崩れ去ってしまった。ボクは、ヤケになって、目の前の料理を食べた。食べ始めると、少し落ち着いてきて、自分の状況を考えられるようになった。そうだ。ボクもあの舞台に立つんだった。百六十名の前で歌うんだ。途端に緊張してきた。でも、この「揚げ魚の甘酢あんかけ」はおいしいな。
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