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「き〜ら〜き〜ら〜ひ〜か〜る〜」
「駄目じゃ!もっと大きな声で!」
「だって、ほら、お隣が」
「ああ、そうか。やりにくいのう」
今日からは、声を出せ。そう言われて、ボクは今までに練習したタブ譜の中から、曲になっているものを選んで弾きながら歌ってみた。「きらきら星」とか「うみはひろいな」とか、三線を鳴らすのは簡単なんだけれど、声を出すと手が止まる。弾けていたのに弾けなくなるというのは、なんとも歯痒いものだ。胃の辺りがむかむかしてくる。何か良い方法はないんだろうか。なんて考えていたら、また止まってしまった。顔を上げて、オジイを見る。目をつぶって聞いている。
オジイが目をカッと見開き、指をパチンと鳴らしたら、とたんに歌って弾ける営業マンになっていたり・・・しないよね。そんなことができるなら、最初からやってくれてるよね。
「歌いながら弾く」という課題は、おそらく最初の試練と言っていいだろう。弦を切ったというアクシデントを除けば、今まで苦労らしい苦労はしていない。オジイの差し出す課題は、ことごとくクリアしてきたし、それが楽しかったんだ。ところが、こいつだけは、ボクの前に立ちはだかり、笑いながらこちらを見下ろしているようだ。
「ハハハ、子どもの方がよっぽど上手じゃ」
笑いながら見下ろしているのは、オジイだった。
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