直線上に配置
第五章 (3)
プロローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
第六章
第七章
第八章
第九章
エピローグ
 「き〜ら〜き〜ら〜ひ〜か〜る〜」
 「駄目じゃ!もっと大きな声で!」
 「だって、ほら、お隣が」
 「ああ、そうか。やりにくいのう」

 今日からは、声を出せ。そう言われて、ボクは今までに練習したタブ譜の中から、曲になっているものを選んで弾きながら歌ってみた。「きらきら星」とか「うみはひろいな」とか、三線を鳴らすのは簡単なんだけれど、声を出すと手が止まる。弾けていたのに弾けなくなるというのは、なんとも歯痒いものだ。胃の辺りがむかむかしてくる。何か良い方法はないんだろうか。なんて考えていたら、また止まってしまった。顔を上げて、オジイを見る。目をつぶって聞いている。

 オジイが目をカッと見開き、指をパチンと鳴らしたら、とたんに歌って弾ける営業マンになっていたり・・・しないよね。そんなことができるなら、最初からやってくれてるよね。
 「歌いながら弾く」という課題は、おそらく最初の試練と言っていいだろう。弦を切ったというアクシデントを除けば、今まで苦労らしい苦労はしていない。オジイの差し出す課題は、ことごとくクリアしてきたし、それが楽しかったんだ。ところが、こいつだけは、ボクの前に立ちはだかり、笑いながらこちらを見下ろしているようだ。

 「ハハハ、子どもの方がよっぽど上手じゃ」

 笑いながら見下ろしているのは、オジイだった。


(4)へ

トップページへもどる
直線上に配置