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左手で女弦を押さえたら、右手は女弦をはじく。中弦を押さえたら、中弦を。男弦なら男弦。当たり前のことだ。だが、世の中には「当たり前のことが当たり前にできない」ってことが多いもんだ。
正しいかどうかを確かめたいから、三線を上に向けて手を見ようとしてしまう。でも、オジイは「三線は正面に」と言う。初心者のボクには見ないで弾けっこない。そこで窓ガラスに姿を映すという方法を考え出した。これはいける。だけど、やっぱり直接目で見てしまうんだよね。ま、徐々に慣れるってことで。
オジイの差し出す課題は、決して難しくはなかった。三本の線と0〜3の数字だけ。それを、その通りに押さえてはじけばいいんだから。タブ譜の通りに弾いていると、どこかで聞いた曲も出てきた。「さいたーさいたー」とか「うみはひろいな」とか、知っている曲が弾けるって、けっこう楽しい。楽しいだけではなくて、勘所の間違いにも気づきやすい。曲を知っているから、音が違うとすぐに気づくんだ。なるほど、いい練習だ。オジイ、なかなかやるね。
だんだん調子に乗ってきた。オジイが差し出す課題も、どんどんクリア。三線って、簡単だねえ。なんて思っていたら。
「駄目じゃ!」
「どこか、おかしいですか?」
オジイの言うには、音がきちんと伸びていないそうだ。
「1〜2〜0」と指を動かすなら、「1」を押さえている指は、次の「2」をはじく寸前まで押さえておかなければならない。つまり、「1」の人差し指と「2」の中指は、一瞬で入れ替わり、入れ替わった瞬間に「2」を鳴らす。「2」を鳴らしたら、次の「0」を鳴らす寸前まで、きちんと「2」を押さえておかなければならない。
どの音も、次の音を鳴らすまできちんと伸ばしておくことが大切なんだ。ボクにはそれができていないんだって。
これを意識し始めると、とたんに動きがぎこちなくなってしまった。ボクの指。なのに、ボクの思い通りに動かないんだ。ただ、うまくいったときには、音のつながりがよくなっている。それはわかるんだ。意識する前は、「テン テン テン」と、音が切れるような感じだった。下手な木琴みたいと言えばいいかな。で、意識し始めてからは、「テーーンテーーンテーーン」となめらかなんだ。たしかに、この方が音楽している。気がする。うーん。なんだか「修行」っぽくなってきたよ。
その晩、ベッドで目を閉じると、タブ譜が出てきた。夢の中でも演奏してたような気がする。
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