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第二章 (2)
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エピローグ
 ケースの向こう側から、声がした。

 「まず、ウマを立てて」
 「ウマ?」

 まいったな。いきなり専門用語だよ。紙袋の中にあるかと思って、ごそごそ探したんだけれど、そもそもウマってものを知らないんだから探しようがない。ボクは紙袋に手をつっこんだまま、おじいさんに尋ねた。

 「ウマって、何です?」

 おじいさんは、三線の弦と皮の間に挟まれている小さな部品を指さした。へー、これがウマなの。

 「それならここにもあります」

 と、紙袋の中からウマをつまみ出したけれど、

一つでいい。予備のウマはあとで三線ケースの中にでも入れておきなさい」

 そうだった。店員さんも予備にって言ってたっけ。
 初めての楽器だから、わからないことだらけだ。三線の部品とかの名前も全然知らない。指示されるたびに「何ですか」と聞き返すんじゃあ効率が悪い。これから少しずつ教えてもらって、覚えなくちゃね。
 ボクは紙袋をケースの側に置いて、ウマってのを立ててみることにした。言われたとおりにやってみた。弦を持ち上げる時には指が少し痛かったけれど、特に難しいことはない。

そうそう。そっちが前。逆に立てると倒れやすいから気を付けるように」

 なるほど。前後があるんだね。偶然正解だったんだ。つるつるがこっち、っと。で、弦をウマの溝に合わせて。
 お!鳴った。ハハハ、鳴ったよ。三味線店で触ったときと同じだよ。ボクは三本の弦を親指で何度も弾いた。きっと、恥ずかしいくらいの笑顔だったろう。

 「次はチンダミをしなさい」
 「チン・・・?」
 「なんで赤い顔をしてる?」


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