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 そして、三週間後。つまり先週、ボクは引っ越した。社宅に。家族向けの社宅だから、独身のボクは入れないはずだったんだけど、最近は社宅も不人気で、ずっと空き部屋があるらしい。そんな事情で、会社から「開けていてももったいないから」って勧められたんだ。年が明けてから引っ越そうかとも思ったんだけれど、大した荷物もないし、話が決まってすぐに引っ越した。おかげで、ずいぶん広くなった。一人住まいには広すぎて、ちょっと寂しいけれどね。あの河川敷は少し遠くなったけれど、駅には近くなったよ。
 で、社宅には無料で使える駐車場があるので、ボーナスと貯金で車を買ったんだ。軽自動車だけど、ボクにはちょうどいい。もうすぐ納車なんだ。

 これからも、三線は続けるつもりさ。最近、八重山民謡ってのに、ちょっと嵌っている。インターネットでCDを買ったんだけど、まだ歌える曲はない。これからもっとレパートリーを増やしたいね。もし、この次に沖縄県人会に呼ばれたときには「リクエストをどうぞ」って言えるくらいになりたいもんだ。

 さっき、糸巻きを見ながらオジイがやってきた日のことを思い出していたんだ。すべてはこの糸巻きから始まったんだよね。あの日は本当に驚いたよ。っていうか、呆れてしまった。オジイったら、願い事を叶えてやるなんて言ってボクに三線を買いに行かせたんだから。まあ、言われたとおり買ってくるボクもどうかしているよね。
 今は感謝している。あのときボクが言った願いは一つも叶えてもらえなかったけれど、三線を教えてもらえてよかったと思っている。それでよかったんだろうと思うよ。ボクも無茶なお願いをしたからね。商談を成功させたいとか、車を出せとか、広い部屋に住みたいとか、彼女がほしいとか、うまい物が食べたいとか。

 ・・・あれ?・・・

 商談は成功だった。危ないところだったけれど、三線のおかげで大逆転だった。
 車は、ボクのボーナスと貯金だけど、とにかく手にはいることになった。
 広い部屋。この社宅だ。
 彼女。とはまだ呼べないけれど、とりあえず今は良い関係だよね。
 それにパーティーではうまい物をいっぱい食べさせてもらって・・・・
 いや、でも、まさか、オジイの力じゃないよね。偶然だよね。
 そうそう、あのとき、ぼくはもう一つ願い事を言ったんだ。「一等の宝くじ」ってやつ。これは叶ってない。オジイの力で願いが叶えられたんだとしたら、宝くじの願いも叶えられてなけりゃ。でも、ボクの手元には「一等の宝くじ」は無い。ほら、やっぱりオジイの力じゃないんだよ。絶対違うよ。そんなはずないもの。

 ・・・宝くじは、買っていないんだから。当たるはずがないんだよな。でも、もし買ったら・・・

 商談、車、広い部屋、彼女、うまい物・・・
 宝くじを買ったら・・・

 はあ。そろそろ考えるのをやめて、寝ることにしよう。


おわり (2005年6月)

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