GO MOUTH HERE MOUTH 蛇皮の命ははかない
 量をとるか、質をとるか。
 
 蛇皮の場合、「寿命をとるか、音をとるか」と、迷ったことがありますか?



 この胴を見て、「おや?」と思った人は、胴をよく観察しておられるか、あるいは三味線店の経営者かもしれません。
 どこが普通と違うのか。
 胴を仕入れたときは、内側の角は直角です。そこを斜めに削っているのです。「面取りしてある」と表現すればわかりやすいですか?
 ここを削ると、皮と胴の接着面が狭くなり、その分皮の振動できる面積が広がります。
 削ってある幅は1cm程度。このわずかな違いが、音を明瞭にしてくれるのだそうです。そのかわり、皮が破れるリスクが高まるそうです。
 当然ですが、ここを削ってあっても皮を弱く張ると意味がありません。この胴で、強く張ることがよい音には必要なのだそうです。
 この写真の三味線店は言います。
「長持ちさせようと思ったらだめ。皮は1年で張り替えるくらいのつもりで」
 これはもう、きっぱりと「寿命ではなく、音だ」と言い切っているわけです。
 とはいえ、張ったとたんに破れたとしたら、これは失敗です。店主には自信があるのです。1年くらいは十分にもつ。1年で破れるという意味ではないのです。
 私の三線を見せると、「張りきらない(張ることができない)三味線店も多いから」とつぶやきました。
胴の断面だと思ってください。寸法はいいかげんですけど。
 左が削っていないもの
 右が削ったもの
接着面(赤い矢印)と
振動できる面積(青い矢印)の関係がわかっていただけますでしょうか。
 実際は、側面も接着されていますが、ここでは上面だけを示しています。

 これをやる三味線店は、「削るのがあたりまえ。常識だ」と言います。一方、これをやらずに、寿命をできるだけ長くしながら、良い音を作るという方針で「確実なことは言えないけれど、3年くらいはもたせる」と言う店主もいます。それでも、強く張れば、それだけ寿命は短くなると考えるべきでしょうね。

 私の考えは・・・・・・やはり、音!

 皮は破れて当たり前。破れるからいいのです。破れてくれるから張り替えようと思う。皮の寿命なんて、はかないものです。そのはかなさが音になる。

 1年ももってくれれば、上等ですよ。ハハハハ。

                    できれば2年もってほしいけど。


            ずーっといい音だったらもっといいのになあ・・・・



GO MOUTH HERE MOUTH ブローカーの悩み
 たしかに、三線を買うときには悩みます。

 「三線を買ってきてほしい」と依頼された経験があります。大阪で8名。だったと思います。三線ブローカー。なんだか怪しい響きです。といっても、マージンも交通費もとったことありませんので。

 依頼されると、私はうれいしい。なぜか。人のお金で買い物ができるから?そうなんですけど、ちょっと違います。三味線店へ行くのは好きです。店の迷惑にならないように、気を付けていますが、何度も顔を出しながら、三線を全然買わないというのは心苦しいものです。そんなとき「沖縄へ行くなら、三線を買ってきてほしい」と言われると、「やった!やっと三味線店の売り上げに貢献できる」と思うのです。

 うれしさと同時に悩みもあります。

 「どんな三線がほしいのですか?」
私が依頼者に尋ねるのは当然です。ところが、そんなときに
 「わからないから、任せます」とか、
 「どんな三線がいいんですか?」
と反対に聞かれることがあります。

 「予算は?」
と尋ねたら、
 「いくらくらい必要ですかね?」
ときます。

 無理もありません。三線のことがよくわからないから、私に依頼しているわけですから。でも、「OK!すべて私に任せなさい!」と胸をたたけるほどの自信はありませんので、ここで三線の説明になるわけです。棹の話、皮の話、型の話、そして値段の話。
 長々と説明するのですから、途中で面倒になって「ああああ、もういい!何でもいいから、このお金で買ってきて!」とお金を叩きつけられるかと思いきや、さにあらず。今までのどの依頼者も真剣に話を聞いてくださいました。
 「で、黒木って、音がいいんですか?」
 「うーん、黒木だから音がいいとは言えないのですが・・・」
 などという、非常に難しい質問も出たりします。
 一通り説明し終わりますと、依頼人の好みが少し見えてきます。

「とにかく、安いもの」
 この場合は、インターネットでの購入をすすめます。一番安い価格帯ですと、何処の店でもそれほど違いがないと思います。インターネットですと、ケースや小物がセットになったものが売られていますし、選択肢も多いからです。

「とにかく、音のよいものを」
 こう言われると、完成品を探してこなければなりません。しかも音の好みは人それぞれですし、むずかしいですね。一応依頼者に音の話をしておいて、「じゃあ、こういう音を目標に、探してみますね」ということになります。

「黒木の三線にあこがれている」
 この場合、三味線店で棹を選んで、完成したら送ってください。という注文の仕方もあります。でも、完成品を見ていないので、音が確かめられないのが問題です。

「かわいいの」
 見かけを重視する。ということで、これも探しやすいといえます。予算にもよりますが、一度、シマコクのスンチー塗りを買ってきたときは、喜んでいただけました。

「黒木で与那。本皮を強く張って、手皮はミンサー」
 ここまでこだわってくれると、こちらも楽です。この通り、三味線店に伝えればよいわけですから。依頼者の予算を聞いて、話をつめます。


 「三味線店を教えてほしい。今度沖縄へ遊びに行くので、そのときに三線を買いたいから」
という人もいました。これは「買ってきてちょうだい」より難しいかもしれません。私にとってよい三味線店が、あなたにとってよい三味線店でしょうか。わかりません。それに、私はすべての三味線店を知っているわけではないのです。私の知らない「掘り出し物」の三味線店があるかもしれません。
 だから、教えられません!とは言えないので、紹介はします。宿泊先を聞いたりして、「でしたら、○○三味線店というのが近くにあります。そこなら安心。だと思いますが・・・」
 そうして買ってこられた三線を見せてもらった経験が二度あります。その二度とも、私はこんなことを口にしました。

 「いいですねえ。いくらでしたか・・・・え?その値段で。おかしいなあ・・・・」

 この言葉を読むと、「かわいそうに。高い買い物をさせられたんだね」と思われるでしょうが、逆です。思ったよりも安い買い物をしてこられたのです。お二人とも。そのお一人の話がすごかった。

 「教えてもらったお店へ行ったら、三線を出してきてくれて、その中の1つがとってもいい音だったんです。持ち合わせがこれだけしかないから、どうしてもこの値段でって。10分ほど粘って、とうとうこの値段で買ってきました」

 この話を聞いて、私は青くなりました。今度三味線店へ行ったら、なんと言われることやら。とにかく、三味線店に電話をしてお礼を言っておこう。
「先日、女性がそちらで三線を買ったでしょう。ずいぶんいいものを、安く売っていただいてありがとうございました」
「はいはい、来てました。いやあ、すごい人でした。どうしてもこの値段でって、きかないんですよ。1時間ほど粘られて、とうとう根負けしました」
「(い・・一時間・・・・話が違う)ああ、そうでしたか。どうもすみませんねえ」
「いいんですよ。こうして紹介してもらえて、口コミで店のことが広まっていくのが一番うれしいですから」
「それはどうも。本人はとっても喜んでいました。音が気に入ったんですって。黒檀の棹だから、子孫に伝えられますよって言ったら、ますます気に入ったと言ってましたよ」

 後日、購入者にこのことを伝えたところ「一時間も粘っていませんよ。絶対に。外に車を待たせていたし。でも、お店の人にとっては1時間くらいに感じたかも・・・」ですって。


 さて、私の買い方は。
 依頼者との話で、店と予算が決まったら、
 「この値段の三線、ありますか?」
 と言って、出してもらう。それを見て、納得できたら購入。ですから、値切ると言うことができません。この女性に比べて、私はなんて買い物がヘタなんでしょう。と反省しても、やっぱり私には値切り交渉は無理ですねえ。 



GO MOUTH HERE MOUTH こんな三線は弾きにくい
 私が今までに出会った、弾きにくい三線たち。

 糸巻きの調子が悪い三線
 多いです。うちにもいます。でも、ある程度はがまんでしょうね。買ったばかりとか、塗り替えをしたばかりの三線ですと、使っているうちになんとなくなじんでくることもあります。
 突然ゆるむのもいやですけど、ぬるぬるとした感触の糸巻き。あれは一番困ります。ちゃんととまっているのかどうかわからないですから。

 極端に音の小さな三線
 「この三線は鳴らない」とか「良く鳴るねえ」などと言いますが、鳴る=音が大きい。という意味ではないと思います。音があまりに大きいのは、「バー鳴り(ばーない)する」と言って、嫌う人もいます。音が大きければ、小さく弾けばよいのですけど、音が小さいのは困ります。私のように、普段からがちゃがちゃ弾く人間は、音が小さいと余計に力が入って疲れてしまいます。

 ウマが低すぎる三線
 ウマの高さを変えると、弾いたときの感触が変わります。音も少し変わるようです。低い方がはっきりとした音になりますか。だからと言って、あまり低すぎるウマは困りますね。学生のころは、ウマの足が片方折れてしまったときに、もう片方を同じ長さに切って使ったりしたので、ずいぶん低いウマでもがんばっていました。

 弦が高い三線
 あなたの三線の、「乙」の勘所(「五」でもどこでもいいんですけど)を見て、弦と棹の間隔が4ミリ以上開いていたら。もっと弦の低い三線をだれかに借りて弾いてみてください。きっと、「あらまあ、なんて気持ちのよい弾き心地」と驚かれること請け合い。弦が高いと、指を大きく動かしてしまいますし、指先が棹に当たるとき、痛くなります。

 勘所が微妙に違う三線
 勘所は、歌口からウマまでの距離が同じなら、誰が作った三線でも、3万円でも30万円でも、同じはずです。でも、微妙に違って感じるものがあります。これは、左手の定位置の問題(「カンカラ三線で練習」参照)と、棹の太さに関係があると思います。三線の型による違いはほとんど無いはずなのですが、それでも作り手のクセで違いがでる場合もあります。三線を購入してから後悔しないように、買う前には必ず弾いてみましょう。

 手皮のヒモがゆるゆるの三線
 最近、「滑り止め」というのが売られているのですね。手皮の下の方に貼って、膝から滑り落ちるのを防いでくれる。立って弾くときは、腰からずり落ちない。
 ある三味線店の店主が「こんなものを買う人がいるなんて、考えられん。滑るのは、構え方がおかしいからだ」と嘆いていましたが、その三味線店でも売っていました。ほしいという人がいるから、しかたないと言い訳していましたが。
 きちんと構えていても、手皮のヒモがゆるんでいると、ずれやすいようです。滑り止めを買う前に、確認しましょう。

 弦を張り替えたばかりの三線
 張り替えたときにしっかり伸ばしていても、やっぱり少しずつ音が変化していきます。発表会を控えている人は、二日前には張り替えを済ませておくべきでしょう。

 太い三線
 どれくらいの太さ以上だと太くて、どれくらいだと細いのか。これはもう、自分が基準でしょう。とにかく、自分の好きな太さよりも太いものは太い!太いと何がいけないのか。見た目が悪い。と私は思います。じゃあ、弾きやすさと関係ない?・・・・はい。

 細い三線
 これは本当に弾きにくいです。太いのに慣れている人は、絶対に細い棹を嫌います。まず、左手に力が入りにくい。弦を押さえたときに、棹からはずれることがある(下手なだけだろう!と言われれば、それまでです)。女弦が左手に当たって、音がとまることがある。それでも、私は細いのが好きですけど。
 博物館の「盛島開鐘」は、ずいぶん細いですから、弾きにくいと思いますよ。

 重すぎる三線
 ある時、ある三味線店で、友人が「久場ぬ骨」の三線を見つけました。それを手にとって少し弾いてみて、「これ、いい!これはいいよ」と、絶賛。それほど高い値段は付いていませんでしたけれど、いたく気に入ったようです。
 「三線の型の中で、弾きやすさという点では、久場ぬ骨が最高かもしれないね」
と言っていました。響きも気に入ったようですが、一番気に入ったのは軽いことだそうです。その三線は黒木でした。でも、久場ぬ骨は全体が細めに出来ていますので軽くできています。民謡酒場の歌手ですと、立ったまま演奏しますので、重さは重要でしょうね。

 冬場の冷えきった三線
 「寒くて、三線にさわるのがいや」
 沖縄では経験できませんが、寒いところではこういうこともあるのです。それでもがんばって三線にさわる。すると、左手がかじかんできて・・・・思い出しただけでも寒い。

 三本の弦の間隔がおかしい三線
 歌口の作り方がおかしな三線がありました。女弦と中弦の間隔と、中弦と男弦の間隔が違うのです。演奏できないわけではありませんが、気持ち悪い。

 ストラップのついた三線
 ある民謡酒場に、細いストラップのついた三線がありました。それを借りて、ストラップを首に掛けて弾いてみたのですが、三線が落ち着かなくて弾けません。やっぱりいつもの構えかたでないと、と思って、今度はストラップを首からはずしたら、それがブラブラして弾きにくい。ストラップは嫌いです。

 以上、冗談みたいな話も書きましたが、三味線を購入するときに、気にすべき点もわかっていただけたかと思います。




GO MOUTH HERE MOUTH ハマシタンとは縁がない
 ハマシタンを漢字で書きますと、「浜紫檀」となるのでしょうね。でも、動植物の名前は、普通カタカナで表すことが多いようですので、「ハマシタン」としておきましょう。海岸近くに自生している事もめずらしくないそうですが、成長が遅く、なかなか大木にはなってくれないとか。
 沖縄では、立派な盆栽になっているのを見ることがありますが、寒さに弱いのでしょうか、本州では見られないそうです。

 2003年の8月、ある人からこんなメールをいただきました。(一部)
 先日、我が家に2丁めの三線が届きました。
 購入先は、以前と同じ三線店です。真壁型で棹はハマシタンと言う赤い木です。これが驚くほど大きな音が出ます。1丁めの与那型も、三線教室の物と比べて、良い音だと思っておりましたが、少々ショックを受けました。
 音の表現は難しいですが、1丁めが棹で鳴っていると言う感じなら2丁めは、棹と胴が同時に鳴っていると言う感じです。
 店主に感想を述べたところ、バランスが非常に良く出来たとの事でした。

 三線を購入するまでは、三線教室で借り物の三線を使っておられたそうです。その後、購入された一つ目の三線は与那型で、借りていた三線よりもずっとよい音で満足しておられました。さらに二つ目の三線を購入。それがハマシタンだったのです。文中に「少々ショックを受けました」とあるのは、最初に購入した三線でも十分よい音だと思ったのに、二つ目の三線を買ったら、もっとよい音だったということにショックを受けたというお話です。メールはさらに、こう続いていました。
 三線を弾き始めて3ケ月しか経っておりませんが、ギターなどを弾きますので音の違いには敏感になります。まだ、何十万円もする三線を弾いた事はありませんが、今後もっと良い音の三線に出会ったらと思うだけで怖くなってしまいます。

 教室で借りていた三線、最初の与那、そしてハマシタンの三線と、次々とよい三線に出会うことができたのは幸運としかいいようがありません。
 実は、このメールをいただく以前に、ハマシタンの棹を見たことはありました。三味線店巡りをしているときです。棹だけの状態で壁に掛かっていました。

 「ハマシタンで作った三線は、必ずよく鳴る」

 その三味線店の店主の言葉です。興味はありましたが、疑い深い私は、一人(一つの店)の評価だけでは信用できませんでした。そこで、別の三味線店でもハマシタンの評価を聞いてみたのです。結果は「あれはいいよ。あるなら欲しいね」でした。でも、実際にハマシタンの三線を弾くことはできませんでした。
 そこへ、先ほどのメールです。ハマシタンの三線。弾いてみたくなりますよね。

 メールをいただいて二週間後、沖縄へ行き、あの三味線店を尋ねました。ありました。棹だけの状態で壁にかかってます。しかも2つも。
 値段は、先のメールの主から聞いていました。意外に安いのです。決して高級品の金額ではありません。

 三線の棹は「黒木」つまり黒檀がよいとされます。中でも「八重山黒木」を最上とし、これを持つことはいわゆる「ステータスシンボル」でもあるわけです。
 物の値段は、需要と供給によって決まるわけでして、需要の多い黒檀の三線は高価なものになっているわけです。まあ、黒檀の場合は三線として利用されるだけでなく、他にも多くの用途があり、原木の値段も高価ですから黒檀の三線の値段が高いのは無理のない話ではあります。
 さて、ハマシタンは。
 このHPをご覧の皆さんも、三線の材料としてハマシタンの名を聞いたことはないだろうと思います。見た記憶があるとしたら、たぶんこのHPでしょう?
 一般に、三線の材料として有名ではないハマシタンですので、「ハマシタンの棹が欲しい」というお客さんもほとんどいないはずです。あまり需要がないわけです。それで、高い値段はつかないのでしょう。そのうえ、よい三線になると知っている人(三味線店)も、それほど多くないのかもしれない。
 そう考えると、需要も無いけれど供給もほとんどないであろうハマシタンの三線に出会えるのは、千載一遇のチャンスと言ってもよいわけです。

 心の中では、購入意欲がむくむくとわいてきます。ところが、店主は、ハマシタンの棹を指さして「それは売れない」と言います。売りたくないのではなくて、直さないといけないからだというのです。トゥーイに問題があるのでしょうか。結局この日も、音を聞くこともなく、ハマシタンとはお別れしたのでした。ああ、一度でいいから、弾いてみたいものです。

 2004年1月末。別の知人からメールが届きました。(一部)
 三味線店に4時間居座ってあれこれ店主とお話をして、ハマシタンの三線を買いました。
 はじめ普通のや黒木やら見せてもらっていて、今一つという表情を見抜かれたのか、最終的に勧められたものです。棹だけの状態でしたが、実際に音を聴いて決めたいというわがままな要望にも応えて下さり、その場で組み立ててくれました。
 よろしければ今度見てください。

 な、な、なんてこったい!
 そうなんです。そんなものなんです。

 縁がない。私は、ハマシタンとは縁がないのです。三味線店で二度も目にしていながら、音さえ聞けなかった私。ところが、私の知人はハマシタンの三線を購入している。しかも、二人もです。

 でも、見方を変えると、運がよいともいえます。
 数少ないハマシタンの三線を持っている人を、私は二人も知っているのです。しかも、そのお一人からは「今度見て下さい」とまで言っていただいたのです。こちらから頭を下げて見せていただきたいくらいですのに。

 2004年2月。ついに、ハマシタンの棹が、いえ、ハマシタンの棹を持った知人が我が家へいらっしゃいました。実は、その一週間ほど前に、別の場所でこのかたと会う機会があり、三線も見せていただいたのですが、この日は我が家でゆっくりと拝見して、写真も撮らせていただきました。

 きれいな刺繍の手皮を巻いた、蛇皮の胴でした。でも、皮の薄いタイプでした。音はよく伸びますが、軽い感じがします。胴が変わるとどんな音になるのか興味がありましたので、持ち主の許可を得て、我が家の人工皮の胴を取り付けてみました。少し音が力強くなったような気がします。その人工皮の胴のまま写真撮影しましたので、下の写真では手皮のない三線になっています。

 真壁型で、均整のとれた美しい形です。太さは平均的なところでしょう。糸巻きの調子もよいですし、扱いやすい三線です。塗りは透明で木目がよく見えます。
 緻密で重く感じます。黒檀よりは、やや軽い感じです。木の繊維は真っ直ぐではなく、所々で波打つようになっていました。
 胴を付け替えるときに、芯も撮影しました。赤っぽい肌です。黒い筋が入っている部分もあります。
 チマグのあたりは、赤い肌に黒い縞模様が入って美しい。 

 四時間ほど店で話をしていたという購入秘話の中に、
 「店主の話では、ハマシタンを持っていると火事にならないんだそうです。店主も、その理由までは知らないようでしたが。ただ、ハマシタンの別の名前がミズ・・なんとかいうらしいです」
 調べたところ、ミズガンピというのがハマシタンの和名だそうです。でも、火事との関わりはわかりませんでした。また、別の三味線店で聞いてみることにしましょう。

 さて、ハマシタンでできた三線の、音の特徴は?
 材料と音の関係は、よくわかりません。「ハマシタンだから、こんな音だ」と言い切ることはできないんです。私が触らせていただいたこのハマシタンの三線は、素直な音だと思います。音は比較的大きめでした。余韻は長く、雑音もなくすっきりした音です。
 皮の厚い蛇皮の胴をつけたらどうなるのでしょうか。我が家の三線の蛇皮の胴を外して取り付けようと試みたのですが、こちらは合いませんでした。残念です。
 持ち主は「いつか、もっとよい皮を張って弾いてみたい」とおっしゃっていました。楽しみの一つにとっておいていただいて、もし張り替えたときには、是非弾かせてくださいとお願いしておきました。

 そして、一年後。とうとう私の手元にもハマシタンの三線が届きました。今は人工皮をつけてあります。黒木よりも柔らかめの音ですが、比較的明瞭で、沖縄民謡によさそうです。




GO MOUTH HERE MOUTH 弾かないと音が出ない
 「鳴る三線がほしいんですけど」
 「うむ。どんな三線でも、鳴る!弾いた数だけ音は鳴るのじゃ!」
 「ははー!目が覚めました」

 三味線店と仲良くなると、こういう冗談も聞けます。
 じゃなくて、三線は弾かないと音が出ませんよ、という話。いえ、だから違うんです。音が出ないというのは、音が鳴らないじゃなくて、いえ、だから、弾いたら音が出るのはあたりまえなんですけど、つまり・・・もう一度最初から説明しましょう。余計な冗談を書いたから、ややこしくなってしまいました。

 あるとき、三味線店の店主が「私の使っている三線だよ」と言って、座敷の方から一つの三線を持ってきてくれました。重厚な作り。皮も厚めです。弾いてみます。しっかりした重たい音です。あまり大きな音ではありません。ここで、鳴る、鳴らないの基準についての話を始めますと長くなりますのでやめておきますが、それほど「鳴る」という感じではなかったと思います。
 「これはね、一時間ほど弾いていると音がもっと出てくるんだ」
 その言葉を聞いた私は、「店主の言い訳?」程度に思っていました。

 私事ですが、この記事を書いている今、手元に三線が二つしかありません(二つもあれば十分だろう!というツッコミは横に置いてください)。他の三線は八重芸に貸し出し中でして。それで二つのうちのどちらかを使っているわけですが、こういう場合、片方に片寄るんですよね。どちらも自分のものなんですけれど、何となく好きな方っていうのがありまして。三つ四つあったときには、いろいろ使っていたんですけどね。
 それほど熱心に弾いているわけではありませんが、とにかくそんなわけで、今は一つの三線ばかりを弾いているんです。すると、なんとなく音が良い。「最近調子良いねえ」なんて、三線に語りかけたり、しませんけれど、やっぱり弾いていないときよりも、頻繁に弾いている今の方が音が出てきている。そう感じているんです。でもまあ、「気のせいかな。気分の問題かな」程度に思っていました。

 邦楽の三味線店へ行きました。何度かお話を聞かせていただいているお店です。その日は皮のことを聞いてみたくて、久しぶりに尋ねたのです。いろいろお話をしていると、店主の口からこんな話が。
 「舞台で演奏するときは、本番前にしばらく弾いてあげないとだめですね。音が出ないんです」
 これって、沖縄の三味線店の店主が言っていたことと同じですよね。そして、私が感じている「最近調子良い」ということにも合致している。店主の言い訳や私の気のせいじゃなかったんだ。
 「そうなんですか。やっぱり、そういうことってあるんですか。沖縄の三味線店でも、そういう話を聞きました。私も最近になってそんな気がしてきたんですけど」
 「皮は、振動させずに置いておくと固くなるんです。そうすると音が出にくい。だから、しばらく演奏して振動させてやる。すると、だんだん本来の音になります。沖縄の三線も、きっと同じなのでしょうね」
 邦楽の三味線の場合、普及品を「お稽古用」と呼ぶことがあるようです。「本番用」と使い分けている人がいる、あるいは、使い分けるのが当たり前なのかもしれません。当然、本番用の方は使う頻度が低いわけで、本番前のウォーミングアップも入念にするべきなのでしょう。
 毎日使っている三線の場合には、ウォーミングアップについてはそれほど神経質になる必要はないかもしれませんが、それでも、もし舞台に立つのでしたら、一時間くらいは音を出してあげてから本番に望む方が良いのだろうなと想像しています。

(注意)
 この話を読んで、「じゃあ、長年使っている三線ほどよい音になるんだ」と理解した人は、勘違いです。これは、数時間という短い時間でのこと。三線の持っている力を出すためには、1時間くらいは(2時間でもよいわけですが)演奏してあげましょうというお話です。
 去年張り替えた三線よりも、20年前に張ったままの皮の方がいい音がするのか。それは違います。皮は、張ったときから徐々に緩み始めると思ってください。乾燥する季節には張りが上がる=強くなる=場合もありますが、一時的な変化を別にすれば、徐々に緩むと考えられます。何年もたった古い皮がよいという意味ではありませんので、念のため。