GO MOUTH HERE MOUTH 第一回 泡盛コンクール   〜 利き酒大会 〜
泡盛コンクールより。  (盛原氏の写真が見つかりませんでした。すみません)


 先に「利き酒王選手権」をやる方がいいのではないか?
 そう言う人もいた。私も考えた。だが、今回の泡盛コンクールでは、自分で育てた泡盛を持ち寄って味を確かめ合うことが一番の目的である。利き酒王選手権をやったあとでは、しっかりと評価できないはずだ。そう考えて、最初に「泡盛コンテスト」を行った。
 しかし、個人の実力を試されるのは、利き酒王選手権である。泡盛コンテストで十分に酔っているのに、これから7つの泡盛の味を記憶し、その後で出てくる泡盛がどの銘柄かを当てなければならないのだ。いままで、これほど過酷な競技があっただろうか。

 「みなさん、猪口を空にしないと利き酒王選手権ができませんよ」
 「え〜!」

 泡盛コンテストと同じ猪口を使うので、飲み干して、綺麗に拭いて使っていただく。すでに酔っている。「絶対に当てられない」と俯く人もいるが、容赦ない。

 利き酒王選手権に使用した泡盛はこちら。
 左から、宮の華、春雨(フロスト)、瑞泉、白百合、球美、松藤、黒真珠

 この中で、宮の華は35度と度数がやや低い。球美は18年古酒。

 まず、そのままのボトルでテーブルに並べる。参加者は、それぞれ泡盛の名前を確かめながら、猪口に注ぎ、味を確かめていく。その間に、私は泡盛コンテストと同じように、外見上同じ容器に泡盛を取り分けていく。その容器に、アルファベットを書いた紙を貼り付け、準備完了。参加者は、まだ味を記憶しようと懸命だ。

 「絶対わからん。絶対わからん」

 酔いの回った頭の中を、同じ言葉が何度も駆けめぐる。

 利き酒王選手権用のカードも用意した。一人に7枚。それぞれのカードには銘柄の名前とボトルの写真が印刷されている。そのカードに、その酒の特徴を書き込んでおく。このあと、「黒真珠=A」というように、回答を書くことになる。

 別井氏は、氏のHPで使用している独自の評価表をカードに書いていた。

 「うーん。これとこれが、同じ評価になるんだよなあ」

 頭を抱える別井氏。時枝氏は、落ちついている。

 「もう、覚えたのですか?」
 「あきらめました」

 いや、覚えてしまったに違いない。

 「あー、球美は特徴があるな」

 奥村氏が呟く。規矩氏が同意する。

 「春雨はねー・・・」

 ほとんど酩酊状態の森畑氏がうなる。

 「信じちゃだめ」

 盛原氏が切り捨てる。

 「えー、えーっと・・・えー」

 森氏の眉間の皺が深くなる。南氏が微笑みながら言う。

 「ボクのだったら、すぐにわかるんだけれどなあ」

 ゴム臭のする泡盛は、ない。

 熱気と酒の臭いで、飲んでいない私までもが酔ってしまいそうだ。実際に飲んでいるみなさんは、当然酔っている。目を閉じて、じっとしている人もいる。

 「そろそろ、覚えられましたか?」
 「い、いえ・・・まられす(まだです)」

 もう暫く待つことにする。

 利き酒王選手権に使用する7つの泡盛は、本島、久米島、宮古、石垣すべての地域を揃えた。
 白百合は個性的な泡盛として有名。黒真珠、春雨は人気銘柄。瑞泉は「第20回全国酒類コンクール」で審査員全員が満点。グランプリをとった。松藤は「第22回全国酒類コンクール」で1位。球美は甕貯蔵18年。宮の華は古酒表示厳格化の前、2003年購入で南蛮甕熟成10年古酒。個性的な泡盛を揃えたつもりだが、さて、どうなる。

 「では、ボトルを片づけます。猪口を空にしてください」

 いよいよ選手権の開始である。アルファベットのかかれた7つの容器から、猪口に注ぐ。難しい顔で猪口を舐める。この香りは、あれか?この刺激は、こっちか?水を飲む。また舐める。何度も何度も首を捻る。頷いては、カードに回答を書き込む。

 「いやあ、わからん。もう舌がおかしいよ」
 「水ちょうだ〜い」
 「宮の華は35度でしょ。これはすぐにわかるはずなのに」

 苦悶の表情、喘ぎ声、水を飲み、髪をかきむしり、眉間に皺を寄せ、独り言を呟く。まさに、難行苦行と言ってよい。だが、どこか滑稽で楽しい。みんな、この苦行を楽しんでいるのだ。

 やがて、こんな声が聞こえてきた。

 「よし。ちょっと自信があるな」
 「やっぱり、白百合だけはすぐにわかるな」
 「春雨は・・・春雨はらいじょうぶ(だいじょうぶ)・・・」

 主催者として一番困ること。それは、全員が全問正解という場合だ。この酩酊状態で、全問正解など可能なのだろうか。いや、酔っていなくても極めて難しいはずなのだ。

 泡盛の味が、すべて同じだとは思っていない。しかし、酔っていてもわかるほど違いがあるものなのだろうか。「うまいビールも最初の一杯だけ。あとは何を飲んでも同じ。発泡酒もプレミアビールもかわらない」といった話を聞いたことがある。さて、泡盛は。

 「では、結果を一人ずつ発表していただきます」
 お名前は五十音順で並べてある。奥村氏から発表していただく。

 「黒真珠、F。球美、E・・・・」

 回答が書き込まれるたびに「おお」とか「え?」とか声が上がる。表には、まだ正解は書かれていない。誰が正しいかはわからないのだ。
 全員が発表し終わった段階で「白百合」は、8人中6人が「B」を選択。これは間違いなくBだろうという声と同時に、「どうして森さんと森畑さんはBじゃないんだ!」という声に一同大笑い。
 少し表を眺めてから、表の上に黄色い紙に書かれた正解を貼り付ける。さて、利き酒王はだれだ?
 写真ではわかりにくいので、表に書き出してみた。
黒真珠 球美 春雨 宮の華 瑞泉 松藤 白百合
奥村
規矩
時枝
別井
森畑
盛原

 右端が正答数。集計の結果・・・

 第一回泡盛コンクール、利き酒王は、別井氏に決定!

 7問中5問正解というすばらしい成績だった。7つの銘柄にAからGまでのアルファベットを当てはめていく問題なので、1つ間違えれば自動的に2つ間違えてしまうことになる。そう考えると、この「7問中5問正解」を越えるには、全問正解しかないわけだ。別井氏は堂々の成績で初代利き酒王に輝いた。

 参加者は、しばらくの間、この表を見ながら泡盛談義に花を咲かせた。私もいろいろと考えた。
 まず、予想通り「白百合」はB。6人が正解だった。また、「球美」と「春雨」も5人が正解している。これらは個性が強い泡盛だといえるだろう。ただ、その個性の出方がまったく違っていて、「白百合」はクセと言いたくなるし、「春雨」や「球美」は香りに特徴があるのだそうだ。「宮の華」「瑞泉」「松藤」「黒真珠」の正解率が悪かったのは、似た傾向のものがあったからだろう。
 いずれにしても、これだけ酔っていながらここまで当ててくるとは。参加者の舌もたしたものである。

 こうして、第一回泡盛コンクールは終了した。
 利き酒王選手権で使用した泡盛は、まだずいぶん残っているので、もし「利き酒王選手権を体験したい」という人がいれば、泡盛が無くなるまでの間は楽しんでいただける。

 最後に、参加してくださった「選手」のみなさんに感謝申し上げる。(たくさんのお土産、ありがとうございました)
 そして、当日の料理を快く引き受けてくれた妻にも、心から感謝している。

2006,11,20