GO MOUTH HERE MOUTH 第一回 泡盛コンクール   〜 泡盛コンテスト 〜
 「では、第一回泡盛コンクールを開催します」

 だれからともなく、拍手が起こった。2006年11月19日午後5時15分。記念すべき第一回泡盛コンクールが始まったのだ。

 構想2年。まるで映画の宣伝文句のようだが、本当である。コンクールを開催するきっかけとなった別井氏(泡盛コンクールに参加したみなさんからは実名掲載の許可をいただいている)が、我が家に来られたのが2004年の11月19日だったというのを後から聞いておどろいた。あれからちょうど2年。だから構想2年だ。

 まあ、構想2年といっても2年間ずっと考え続けていたわけではない。本気で開催しようと考えたのは今年の春だった。だから、実質半年程度。たった半年。いや、家に集まって持ち寄った酒を飲むという行為のために春から半年かけて準備していたというのは、やはりすごいことかもしれない。

 エントリーされた泡盛は8種類。参加者は9名(ご夫婦が一組)。まず、参加者の紹介と、出品泡盛の説明を聞く。
 自らの手で土を練り、甕を焼いたという強者から、数年前に買った泡盛が残っていたので持ってきたという放任主義者まで、さまざまな泡盛たちが集まった。
 持ち寄るための容器は、洒落た小瓶、ペットボトル、泡盛の2合ビンなどさまざまである。それらの泡盛を、外見上同一のボトルに移し替える。これで、どれが誰の泡盛かがわからなくなった。それぞれのボトルにはAからHまでのアルファベットを書いてあるが、誰の泡盛がどの容器に入っているかを知っているのは、主催者である私だけだ。

 参加者から泡盛の説明を聞いた。一番古いのは、奥村氏の自宅保管十数年という古酒だった。他は自宅での保存が2〜5年程度だが、もともと古酒を購入しているので、10年古酒以上がほとんどだと考えて良さそうだ。別井氏は新酒を自作の甕に保存して2年だそうだ。


 「自宅で育てた泡盛を持ち寄って、味を確かめ合いたい」

 当初、「泡盛コンクール」などという名前は考えていなかった。2〜3人が私の家に集まって、持ち寄った泡盛を飲んで、香りがあーだ、刺激がどーだなどと話をして楽しむといった程度の飲み会になると思っていた。しかし、知人のブログを見たり話を聞いたりしていると、家に甕を置いている人は思ったよりも多い。もっと人数が集まりそうだ。
 だったら、このイベントをもう少しおもしろくするために、一位を決めてしまおう。というわけで、「泡盛コンクール」を開催することになったのだ。
 どのように泡盛を育てているのか。銘柄は何か。何年育てたのか。そんな話を聞きたい。しかし、人の舌は、味以外の要因にだまされやすい。味の評価には、味以外の情報は邪魔になる。
 そこで、持参した泡盛を解説していただいたあと、全員の泡盛を外見上同一の容器に移し替え、どれがだれの泡盛かをわからなくした状態で評価をすることにしたのだ。

 「では、どうぞ」

 目の前には、8つの小さな猪口がならんでいる。そこへ8つの泡盛を注ぐ。

 「どれくらい注いだらいいのかな?」
 「目一杯入れてもらって大丈夫ですよ。確認してあります」
 「Fとって」
 「はいどうぞ。えっと、Hはどこ?」

 やがて、全員が泡盛を準備し終わって、静かになった。と思ったら、

 「なんだこれ・・・おっと、口に出してよかったかな」
 「どうぞどうぞ。飲まない私のためにも、どんな味かを教えてください」

 すると、森畑氏。

 「あ、自分のはすぐにわかった。Bだ」

 私は手元のノートを開いて確認。なんと、正解。

 「ん?おかしな味がする」
 「うん。臭い泡盛があるよね。ゴム?」

 個性を越えたものがあるようだ。でも、だれの酒かはわからない。

 「Aは好きだなあ。これはうまい」
 「Hもいい」

 育てた本人が聞いたら大喜びするところだが、まだ知らずにいる。


 どのように評価をするか。
 味、香り、まろみ、熟成感、いろいろな項目を作って、それぞれに点数をつけ、総合点で判断する。といったことも考えたのだが、このような煩雑な評価は「飲みながら」行うのには向かないだろう。
 今回の評価方法はこうだ。
 参加者に8枚ずつカードを配る。そのカードにはAからHまでのアルファベットが書かれている。泡盛を味わったら、それぞれのカードに1位から8位までの順位を書く。そして、1位の得票数が最も多かった泡盛を、優勝とする。同点の場合は2位の票という具合だ。
 カードには余白があるので、参加者はそこへその泡盛に対する評価を言葉で書くこともできる。そして、コンクールが終わったら、そのカードを泡盛の持ち主にプレゼント。これで、人がどのように評価をしてくれたかを知ることもできるわけだ。

 奥村氏が声を出す。

 「あ、わかった。臭いのする泡盛。Fでしょ。これ、きっと私のですよ」

 正解だった。なんでも、米の倉庫に甕を置いてあるそうで、米ぬかの臭いが泡盛に移っているというのだ。ところが、他の参加者からこんな声。

 「Fはそんなに悪くないよ」
 「うん。Gの臭いがすごい」
 「そう。ゴムのG」

 みんなが「臭う」という泡盛は、FではなくGなのだ。ノートを確認する。そして、何も知らない持ち主を見る。持ち主も「臭う」と言っていた。

 「自分の泡盛を8位にしたら、どうしよう」
 「あり得るよね」

 あり得た。

 イベントを計画すると、小さな心配事はつきものである。今回のコンクールを考えたとき、一番心配になったのは猪口の問題。利き酒といえば、やはり猪口である。

 白い猪口を覗くと、中に青い二重丸。そう、日本酒の利き酒に使われるあの猪口だ。二重丸は、酒の色と濁り具合をみるために描かれているのだそうだ。
 利き猪口とも呼ばれるこの猪口は、五勺(一合の半分)ほど入るそうだ。けっこうな大きさである。泡盛コンクールでもこの猪口を使おうかと考えたが、数名で持ち寄った泡盛を集まった人数で分けて飲むことを考えると、大きすぎる。それに値段も高い。100円ショップの硝子製の猪口も良いのだが、同じものが揃わない。

 しばらくインターネットで探してみた。すると、小さな利き猪口が売られているではないか。値段も安いし数も揃えられる。迷わず購入した。8人×8個。64個のお買いあげ。

 もう一つの心配。
 小さな部屋にテーブル。そこに8人が座り、ひとりに8個の猪口。目の前に並べて飲んでいる間に、どの猪口がどの酒だったか、自分のだったか隣の人のだったか、わからなくなるのではないだろうか。
 最初に考えたのは、細長い紙を用意すること。それにマスを7つ描いて(最初は参加人数7名の予定だった)マスの中に猪口をおくことにするのだ。猪口を綺麗に並べられるし、他人のものと混ざってしまうこともなくなる。
 しかし、紙では濡れてしまってだめになるかもしれない。木製の台があればいい。7個の猪口を並べて置ける台。できるだけ小さくまとめたい。7個がきちんと並ぶように、猪口の大きさを測って台の大きさを決めた。ホームセンターへ行き、材料を揃えた。完成品がこれだ。
 コンクール以外でも、我が家に遊びにいらしたお客さんにも使っていただける。

 エントリーされた泡盛は、40度程度のものばかりである。小さな猪口で少しずつとはいえ、8種類飲みきったとしたらほぼ1合。これはキツイはずだ。

 ペットボトルの水を2本置いてあったのが、15分を経過したところで無くなった。真剣に味を確かめようと思うと、一杯飲んでは水で口の中を洗い流すという作業を繰り返さなければならないようだ。

 「だんだん、わからなくなってきた」
 「もう、酔ってきたよ」
 「この後、利き酒王選手権も待ってますので」
 「無理!」

 無理でも、やっていただきます。

 コンテストで優勝した泡盛にはメダルを。利き酒王選手権の勝利者には杯を。
 メダルは優勝者(泡盛)にプレゼントということにして、杯の方はペナント(リボン)を付けて、それに名前を書くという形で、第二回以降も同じものを使わせてもらおうと考えている。
メダルの表と裏
利き酒王の杯

 いよいよ結果発表。

 コンクール参加者の中で、本命と呼ばれる人が二人いる。
 一人は、飲食店経営の盛原氏。店で泡盛を出しているわけで、その道のプロといってよい。もう一人は、別井氏。自前の甕を作ったというだけでなく、そのHPに独自の泡盛評価を公開している点が注目されている。

 まず、盛原氏の評価を聞いた。
 壁に貼った表に、盛原氏の評価を書き込む。次は隣の時枝氏。と思ったら、別井氏が「私のを聞いて!」と手を挙げられた。それを表に書き込む。なんと、盛原氏とほぼ同じような評価だ。「盛原さんと同じ感覚だったのが嬉しくて」というのが、手を挙げられた理由らしい。
 全員の評価を聞いて、表に「正」の字を書いていく。集計結果が右の写真。
 実は、最初の4名の評価を聞くまでは、所有者名を伏せておいた。名前を公開したときに、南氏が落胆したのは言うまでもない。あの「G」だったのだ。

 このコンテストを開催するに当たって、飲まない私は二つの点に興味をもっていた。
 一つは『だれもが旨いと評価する酒は存在するのか』である。旨いまずいは、人の好みだ。だれからも旨いと評価される酒はあるのか。また、誰かが1位をつけた酒に、だれかが8位とすることがあるのか。
 もう一つは、甕とビンの対決。甕で育てると個性的になると言われている。ビンの場合は、短期間で大きな変化は望めないが、その分、悪くなる可能性も低い(無い)と言える。市販の泡盛は、酒造所がおいしいと思う状態で出荷されているわけで、その状態を保てるなら一定の品質(味)以上だと考えられるわけだ。さて、甕はビンに勝てるのか。

 写真の表を見やすくするために、書き出してみた。

ボトル
持ち主 森畑 時枝 規矩 盛原 奥村 別井
1位        
2位        
3位      
4位      
5位    
6位        
7位      
8位        

 1位を2票獲得した泡盛が4つ。激戦である。2位を見ても、森畑氏と別井氏が同数。3位の得票数で・・・

 第一回泡盛コンクール、優勝の酒は森畑氏の泡盛となった。

 メダルの贈呈。おどけてメダルを咬んでみせる森畑氏。そこへ「森畑さんは、ただビンを置いていただけでしょ。あのメダルは、宮里酒造にあげるべきだ」という声がかかり、爆笑。酒の力も手伝って、森畑氏は何を言われても上機嫌だった。
 その後もしばらくは表を見てあーだこーだと楽しいやりとり。焼き芋を食べたり差し入れのコロッケをいただいたりしながら、表を見ながら、わいわいがやがや。これが楽しい。

 ここで、表を見ながら交わされた雑談の中から、興味深い点を列挙しておきたい。

 まず、優勝した森畑氏の泡盛。春雨の特別な限定酒だそうだが、本人の話では、最近の春雨には以前のような味わいがない。という。「ただ置いてあっただけ」の春雨ではあるが、数年前にこの味の良さに気付き、購入し、大切に飲み続けてきた氏の泡盛に対する正しい評価はさすが「優勝の酒の主」である。と評価されてよいはずだ。

 森畑氏と、最後まで1位を競り合った別井氏とを比較したとき、おもしろいことに気付く。森畑氏の評価は、1位〜3位が各2票。4位5位が1票で、下位の票がない。一方、別井氏の方は1〜3位で5票を獲得していながら、6位2票、7位も1票入っている。
 これこそが「甕は個性が出る」ということの証明ではなかろうか。酒造所の作った味がほぼそのまま保存されている森畑氏の泡盛と、自前の甕によって個性的な味に変化している別井氏。その個性を半数以上の参加者が認め上位にランクしたことは、特筆すべきだろう。自前の酒甕の実力が証明されたと言えよう。コンテストでは、1位を決めるだけなので2位以下は特別な扱いはないのだが、参加者全員が認める甕の実力である。実質1位の声もあった。

 規矩氏の泡盛もおもしろい。氏の解説では、ある日、部屋に置いてあった甕の中を見ると、半分ほどに減っていた。夏の高温で蒸発したらしい。そこへ、別の銘柄の酒を仕次ぎしたというのだ。今回の出品泡盛の中で、唯一の混合泡盛となる。
 実は、私も数種の泡盛を混ぜて甕に入れたものを持っている。もう4年ほどたつのだが、これをお客さんに出すとかならず「暴れる」とか「いくつもの味がする」などと言われて不評なのだ。だから、泡盛は混ぜるべきではないのかも知れないと思っていた。
 ところが、規矩氏の泡盛は意外にも1位に2票の高評価だった。混ぜてもいける。のかもしれない。私の泡盛も、諦めずに育てることにしようっと。

 さて、気になるのは奥村氏と南氏である。
 奥村氏は、試飲の途中でご自分の泡盛に気付かれていた。そして、「米ぬかの臭いがする」とおっしゃった。やはり、甕は保存場所の臭いが移ってしまう危険性が高いらしい。ただ、この泡盛には、「熟成感はあるので、この先良くなりそうだ」という意見もあった。
 南氏のショックは大きかった。すべての票が6〜8位なのだ。氏は「鬼の手(腕)」などと呼ばれる一升入りの焼き物に泡盛を保存しておられる。「Gはゴムの臭いがする」と言われたその泡盛が、自分のものだとわかったとき、「ああ、ゴム栓のせいだ」と天を仰いだ。やはり、栓は材質に気を使わなければならない。我が家にも同じ「鬼の手」があるので、栓を換えます。

 時枝氏の泡盛は、新里酒造の「琉球」で、娘さんの結婚の時に開封する予定だったとか。それを、このコンクールのために特別に汲み出して持ってきてくださった。なかなかの高評価に安心されたようだ。別井氏のは同じ酒造所の「古酒の源」で、どうやら二つは兄弟と考えて良い。どちらの評価も高い点から、酒そのものの良さがわかる。

 表にすることでいろいろおもしろいことがわかった。飲まない私も十分に楽しめた。

 さて、次は利き酒王選手権である。