三線の呪い? | |||||
私は、年配の二人の会話を、正確に言うと一人は聞いているだけでしたので、もう一人の人が語る話を聞いていました。お二人とも八重山の人です。 話の続きはこうでした。 県外に就職した「彼」は、小さな部屋を借りて生活をしていました。いただいた三線は、ケースから出して、いつでも弾けるように部屋に置いてあったそうです。 仕事も順調。帰りが遅くなるので、三線の練習ははかどりませんが、それでもときどき手にとって、小さく音を鳴らしてあげていたそうです。ふるさとを遠く離れても、三線を持てば近く感じられたことでしょう。 ある夜のこと。仕事に疲れてぐっすりと休んでいた彼は、妙な音に目を覚まします。それは、ごく小さな音でした。何かをひっかくような、重苦しい、それでいてもの悲しいような音。 「な、なんだ、この音。そら耳?いや、確かに聞こえる。あっちだ。部屋の隅の方からだ」 彼は、目だけを動かして薄暗い部屋を見回しますが、視野の中にはだれもいません。でも、音はまだ聞こえています。今度は、そっと上体を起こしました。そして、先ほどまで死角だった部屋の隅、その音のする方向を、目を凝らして見てみました。すると、そこには黒い物体が・・・ 「だ、だれだ!」 勇気を振り絞って布団の上に立ち上がり、天井から伸びている明かりのスイッチを引こうとします。でも、暗くてよくわかりません。指に当たって大きくゆれて、それを捕まえようと空をかきまぜます。スイッチがまた手に戻ってきました。今度はうまくつかまえました。しっかりと引っ張ります。2,3度明滅してから、部屋に明るさが戻りました。黒い物体は、そこにありました。正体がわかりました。 彼はため息をついて、布団の上にしゃがみ込みました。いつでも弾けるようにと、部屋の片隅に置いてある三線だったのです。もう一度ため息をつこうと、息を大きく吸い込んだ彼に、二度目の戦慄が走ります。三線が?なぜ三線が勝手に音を出すんだ。窓は閉め切っている。風が当たるはずもない。動物がいた気配もない。なぜだ。いったい、どうなっているんだ。まさか、呪われた三線!
彼が「呪われた」と思ったのは、身に覚えがあったからなのかどうか、それは聞けませんでしたが、とにかく恐怖は去りました。 昔の三線は、皮を張る糊も小麦粉から作られたものだったそうで、いわば自然素材ばかり。たぶん、木材も防虫処理などしていなかったでしょうから、虫がつくことはいまよりずっと多かったでしょうね。 昔の胴をよく見ると、皮に小さな穴がいくつみつかることがあるそうです。皮を張るための糊を食べる虫がいて、それが穴をあけるんだと、三味線店の店主が教えてくれました。皮をねずみにかじられたという話もありますし、三線にも敵が多いんですねえ。 |