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 島に伝わる、二つの「漁」をご紹介します。

1,石巻落とし

 プロレスの技ではありません。沖縄(他の地域にもあるかもしれません)の伝統的な釣り方の一つです。

 海で船の上から釣る場合、釣り糸の先に針がついていて、それにエサを付けて魚のいる海の底に落とすわけです。ハリとエサの重さだけでは、潮の流れがあったりしてなかなか海の底まで落ちてくれませんので、糸の途中、あるいは先端にオモリを付けるのが一般的な釣り方でしょう。

 石巻落としの場合は、オモリをつけません。釣り糸で石を巻くのです。
 テレビで見ただけで経験していないのですけれど。ちょっと解説を。

 まず、釣り糸の先にはハリ。もちろんエサをつけます。
 適当な石を左手に持ち、その石にエサのついたハリをペタリとのせる。ハリには、当然糸がついています。その糸でもって、石をぐるぐると巻きます。ちょうど、石を芯にしたヨーヨーのような感じですね。
 それを海中に落としますと、石は、ハリとエサを海底まで運んでくれます。底に到着したら、釣り人はヨーヨーのように、釣り糸を引っ張ります。すると、海底で石がころがり、エサのついたハリが海底を漂う。海底の魚は、これに食いつく。というわけです。

 この釣り方、釣り糸を垂らす回数だけ石が必要なので、準備はけっこう大変そうですが、理にかなった素晴らしい釣法です。

○すごいところ1
 釣り糸とハリ以外は、特別な道具を必要としません。竿もリールもいりません。石は必要です。
○すごいところ2
 オモリを糸に取り付けて海中に沈める方法ですと、そのオモリのおかげで、エサの動きが不自然になると言われています。石巻落としは、海底まではオモリ(石)で沈んでいきますが、海底に到着した後は、石から解放されていますので、ハリのついた餌は潮の流れに乗って自然に漂うはずです。魚も警戒しないと思われます。見たわけではありませんが。
○すごいところ3
 魚を適度に刺激します。石を放り込むなんて、魚が逃げてしまいそうと思われるでしょうけれど、結構好奇心が強い魚も多いようです。音にも敏感ですので、石が海中に落ちてきたとき、魚が「おや、何かがいるのかな」と近寄ってくると思われます。
○すごいところ4
 魚礁を作っているのかもしれません。漁師さんは、GPSの無い時代から、船上から陸地を見て、自分の位置を正確に把握することができました。毎回同じ場所で石巻落としをしていると、海底に石が溜まります。それが魚礁となって、魚を集める効果を生むかもしれません。

 実際、よく釣れるのだそうです。観光客向けの「釣り体験」で、これをやらせてくれるところもあるらしいです。やってみたいなあ。

 伝統釣法は、あなどれませんねえ。


2,魚垣

 飛行機の窓から石垣島の海を見ると、浅瀬に、コの字型に囲った石垣が見えることがありました。おそらく、あれが魚垣(ながき)なのだろうと。
 昔は県内各所で見られた「魚垣」も、今では管理する人がいなくなり、ほとんど見られなくなったそうです。
 沖縄の新聞で、白保で地元の小中学生を含めて魚垣(新聞では「海垣」)の修復を始めたと報じられていたことがありました。

 魚垣は潮の干満を利用して魚を捕まえるためのものです。満潮時には海に沈んでいるので、魚が自由に入ることができる。干潮時には石垣が水面にまで出てくるので、中の魚は外に出られない。その逃げ遅れた魚を人間が頂戴するというわけです。

 偶然そこを通りかかった魚が、偶然潮が引くまでそこにいてくれて、偶然逃げ遅れてくれなければ魚を手にすることができません。何と悠長な話でしょう。
 でも、切り株に躓く兎を待つのとは違って、とても合理的な方法だと思います。どこが?
 魚垣の特徴は、その名の通り石を積み上げて作られた石垣であること。石垣ですから、小さな隙間がたくさんできています。そのおかげで、干潮時には潮がうまく抜けて、魚だけが残ってくれるのでしょう。また、台風などで大きな波が来て破壊されても、石垣ならば積み直すことができます。特別な道具がなくても、補修ができるわけです。そして何よりも重要なのは、石垣自身が小さな生き物の住みかになり、満潮時に大きな魚を呼び寄せることができることだと思います。海で魚を釣る人なら、容易に想像できますよね。満潮時にはこの石垣が「沈み根」になっているわけですから。

 さて、魚が魚垣の中に取り残される仕組みはわかりましたが、では、その魚垣の中の魚は、どうやって獲るのか?
 網を持って角に追い込んで掬うとか、完全に干上がるような場所ならば魚を手で拾うとか考えられますね。私が読んだ本(書名は忘れましたが)では、水牛を魚垣の中に入れて、走り回らせるという方法が書かれていました。ショックで魚が気絶して、それを集めるんですって。

 魚が逃げ遅れてくれるのをまつという、のんきな漁だと思っていましたが、水牛を走り回らせる豪快な光景も見てみたいです。






GO MOUTH HERE MOUTH ハブ
 沖縄に行っても、ハブに会うことはめったにありません。見るとすれば、観光施設でしょうね。でも、沖縄では、毎年ハブ咬症被害が出ているんですよ。

 春になりますと、ハブの活動が活発になりますので「ハブに注意」といった啓発がなされます。学生の頃、大学の掲示板にもハブに注意のポスターが貼られていましたっけ。真冬を除けば、いつでもハブの危険は隠れているようですよ。そうそう、温暖化の影響で暖かい冬が多いですから、ハブが動き出す時期も早く、活動期間も長くなっているかもしれません。

 沖縄に住んでいたころ、ハブについての話をいろいろと聞きました。迷信じみたものも含めて、書き出してみました。

  1. 夜道を歩いていてロープを見つけたときには、それをまたいではならない。
  2. 草むらに、むやみに入ってはならない。
  3. 夜、木の下を歩いてはならない。
  4. 石垣の穴に、手を突っ込んではならない。
  5. 車を運転中、路上にハブを見つけたら、タイヤがハブの上に乗った瞬間、ブレーキを踏むこと。
  6. 火のついたタバコを持って、山に入ってはならない。
  7. グループで山を歩くときには、三番目の人が危ない。


 沖縄の人なら、どれも聞いたことのある話でしょう?県外のかたも、だいたいわかっていただけると思いますが、簡単に説明を加えておきましょう。

 夜道で見つけたロープ。これがもしハブだったら大変です。まあ、どちらかというと、その逆。つまり、「わ!ハブだ・・・と思ったら、なーんだ、ロープかよ」という方が多いと思いますけどね。でも、またいじゃだめです。
 草むらに入るのは、本当に気をつけましょう。ハブは、畑の中にだっていますから。
 ハブは木に登ります。私も樹上のハブを見たことがあります。手や足を噛まれても大変なことになりますが、頭や顔だともっと大変です。夜は、なるべく木の下を通らない方がよさそうです。
 ハブはは虫類です。暑すぎるのも寒いのも苦手なようです。ですから、夏場は日の当たらない場所で涼んでいるらしい。石垣の隙間なんて、格好の休憩場所だそうですよ。
 県外のみなさんは、不思議に思っているでしょう。車を運転していてハブを見つけても、タイヤがハブに乗った瞬間がわかるのか。わかったとしても、その瞬間にブレーキを踏むことが可能なのだろうかと。
 実は、沖縄の自動車教習所では「坂道発進」「縦列駐車」「幅寄せ」などの他に「ハブ乗り」も教習科目の一つになっています。乗った瞬間にブレーキを踏む技術は、すべてのドライバーが習得しています。というのは冗談です。
 ハブの上を車で通過しても、ハブは丈夫なので殺すことができない。そこで、少々残酷ですが、タイヤをロックさせてすりつぶしてしまう。熟練したドライバーはそのようにしていると聞きましたが、実際には他の車との事故につながりかねませんし、運転中はハブのことよりも、安全運転を心がける方がよいと思います。
 そして、タバコの話。
 ハブは嫌煙家の中でも非常に過激で、分煙を主張するのではなく、喫煙者に片っ端から攻撃をしかけてきます。というのも冗談です。ハブは熱を感知する器官を備えているので、火のついた煙草に襲いかかるという話があります。熱を感知する器官があるというのは、どうやら本当です。ただ、だからといってタバコの火に向かってくるのかどうかはわかりません。とにかく、街中でも藪の中でも、歩き煙草はやめましょう。
 最後は三人目が危ないという話。こちらがその説明です。

山道の脇のやぶの中。一匹のハブが、まどろんでいる。
そこへ、一列になって歩いてくる人間たち。ハブも人間たちも、まだお互いの存在に気付いていない。

やがて、一人目がハブの前にさしかかる。まどろんでいたハブは、人の気配に驚き、警戒する。
続いて、二人目がハブの前へ。ハブは危険を感じて攻撃態勢をとった。
そして、三人目。ハブはその三人目にとびかかるのだ!

 「だからさ、オレ、先頭を行くわ」
 「じゃ、オレ、二番目!」
もー、おまえたち臆病なんだから。わかったよ。オレが三番目でいいよ。さ、行こう」
 「おお、勇気あるー」
 「ハブ、恐くないんだー」
 「そんなの、当たり前だよ。アハ、アハハハ」
 「ねえ、恐くないのに、前に一人分の空間を空けてるのはなぜ?」