作ったり、壊したり?するのもおもしろい。でも、自己責任でお願いします。






GO MOUTH HERE MOUTH 塗りをはがすのは恐ろしい
 三線の棹は、黒く塗られているのが普通です。でも、手元には塗られていない三線が2つあります。
 一つは、三味線店に「塗らずに使いたい」とお願いして作ってもらったものです。もう一つは、もともと黒く塗られていたのですが、私がはがしてしまいました。

 「どうやってはがしたのか?」そして「なぜ、はがす必要があったのか」という二つの疑問をもたれたでしょう。「なぜ」については、簡単です。棹がどんな木でできているのか知りたかったのです。もう一つ理由をあげれば、古い三線で、先端部分の塗りがはがれてきたなくなっていたからです。
 どんな木でできているかは、棹から胴をはずして、塗られていない部分を見ればよい。と思われるでしょう。そこを見れば、黒木かどうか。また、その質についてもおおよそ見当がつくようです。が、やはり全体を見てみたい。その衝動を抑えきれずに、とうとう自分で塗りをはがすことにしました。

 1978年の夏に、10万円で購入した三線でした。昔のことだから、今の10万円よりももっと価値がある。といいたいのですけれど、三線の値段は、それほど変わっていないと思うのです。ですから、まあ、そこそこの三線と思っていました。

 さて、「どうやって」はがしたか。

 以前、縞黒檀で三板を作ったことがあります。そのときの紙ヤスリや、木製の土台に紙(布)やすりを貼り付けて削る便利な道具が使えそうです。
 弦をほどき、糸巻きを外し、胴から棹をぬきます。さて、どこから削るか。棹の命はトゥーイだと言います。とりあえず、そこは最後にしよう。天やチマグは難しそうだ。ならば、まずトゥーイの反対側から手をつけるべきだろうと、そこからやってみました。
 ここが「チマグ」と呼ばれる部分です。豚の足をテビチといいますが、特につま先の部分はチマグと呼びます。言われてみると、足に似ていますよね。
 三線の顔にあたる部分。曲面が多くてけずるのが難しいです。裏側(凹面になっている)と、左右のくぼんでいる部分は特に難しいですね。

 曲面ですので、紙ヤスリを手に持って、棹をなでるようにこすっていたのですけれど、なかなか削れてくれません。そこで、例の木製の土台に紙ヤスリを取り付けてやってみました。曲面ではありますが、この方がずっとうまくいきます。どんどん粉が出てきます。でも、ここで心配になります。塗りははがしたい。でも、棹を削ってしまうことは避けたい。
 この棹が黒木であることは分かっていました。塗りも黒。だから、今削っているのが塗りの部分なのか木部なのかがわかりにくいのです。おそるおそる、少し削っては別のところをこすってみるというふうに、あちらこちらを少しずつ削っていきました。
 このヤスリは、土台(持ち手)が木製で、布製のヤスリ部分をマジックテープで取り外しができるようになっています。目の粗さは3種類ついていました。もっと細かい紙ヤスリも購入し、必要に応じて使い分けました。
 この商品のほかにも、紙ヤスリや布ヤスリを持ち手に取り付けできるものも売られていました。

 やがて、ところどころに茶色い部分が出てきました。どうやら、木部と黒い塗りの間に、この茶色い層があるらしいのです。なるほど、まず、全体が茶色になるようにがんばればよいのだと理解し、はりきってはがしていきました。
 しかし、素人の仕事です。全体を均一に削り取ることなど所詮無理でした。やがて、茶色い部分の中に黒い部分=木部が出てきたのです。このとき、まだ黒い塗りの残っているところもありました。場所によっては、塗りなのか木部なのか、判別しがたい部分もあります。これには困りました。
 やすりには、目の粗いものから細かいものまで、いろいろあります。ここで、細かいものに変更して、さらに作業を続けました。

 やってみてわかったことですが、黒木は硬い木です。目の細かい紙ヤスリですと、ほとんど削れることは無いようです。ですから、さきほどの、塗りの黒か、黒木の黒かの違いは、少しこすってみて、茶色になるかどうかで判断できるようになりました。
 難しいのは、天の裏側でした。くぼんだ形になっているので、先ほどの土台のついた紙ヤスリは使えません。結局、紙ヤスリを指で押し付けてこするしかありませんでした。
 トゥーイも問題ありませんでした。こちらは、例の土台つき紙ヤスリが大活躍です。

 さて、全体をはがしてわかったこと。

・全部真っ黒の黒木だった。
・ところどころ、キズを埋めた部分があった。
・天の左角が、接がれていた。

 棹の側面のキズ。埋められています。塗られた状態では分からないところですね。
 裏から見ています。左角に接合した部分と中央右にはキズを埋めた跡があります。スンチー塗りの棹では、キズも目立たないように埋めるようですが、これは黒塗りの棹でしたので、目立たなくする必要がなかったのでしょう。

そして、何よりの収穫が、「自分で塗りをはがせるという自信がついた」ことです。
 今、その三線は塗りをはがされた状態で使っています。私の場合はまったく問題なく使えています。友人たちからは、塗られたものよりも手触りが良いと評判です。

 もし、ご自分で塗りをはがす場合は、次の点に注意しましょう。
  1. 棹を削ってしまわないように、慎重に。
  2. 塗りを削った分、棹が細くなります。
  3. 塗っていない棹は、干割れ(裂け目や割れ目)ができやすいと言います。特に、直射日光を当てたり夏場の自動車の中に放置するのはやめましょう。(塗ってあっても、やるべきではありません。
  4. はがしてみたら、あちらこちらにキズや接ぎがあった!とがっかりしないでください。三線の棹はそういうものだと思ってください。特に、黒檀の場合はキズのない棹の方がめずらしいくらいです。
  5. 実際に作業をして、あなたの三線に問題が生じても、当HPとHPの運営者は一切責任を負いません。

  以上、ご自分の責任で作業してくださいね。  



GO MOUTH HERE MOUTH 三板作りは硬い
 硬いのか堅いのか、迷ったのですけれど、私の気持ちは硬いです。

 三板を作りましょう。
 私が使った材料は、材木店でお願いした縞黒檀。長さ420、幅60、厚さ14ミリでした。(左の写真)
 三板の大きさは、1枚の板が、長さ100、幅45、厚さ(最大)10ミリ程度で十分です。もう少し薄くてもよいでしょう。


 まず、台形に切断。縞黒檀は堅い木材ですので、切るのに苦労します。
 一つできたら、これで型をとって、3枚作ります。木くずが鼻に刺激を与えるようです。
 三つできても、あわててヤスリがけしないでください。先に穴をあけましょう。私は4ミリのドリルを使いました。


 先にヤスリをかけて、板の形を作ってから穴を空けようとすると、板を支えるときに不安定になりますし、ドリルで穴をあけるときに、穴の縁が写真のようにささくれだってしまいます。先に穴をあけてから、板の形をきれいに整えるようにしたほうがよいでしょう。

 3つの板すべてに穴をあけるのですから、重ねてあけてしまおうと思ったのですが、そうするとドリルと板の摩擦が大きくなりすぎるようです。
 まず、1枚に穴をあけたら、それをもう1枚の上に重ねて、ドリルを穴に通して、下の板に印を付ける意味で少しだけ穴をあけ、上の1枚をどけてから先ほどの印の場所に穴をあけるというのがよいと思います。

 ここまでできれば、あとは形を整えます。
 ヤスリがけするわけですが、このときにどのような形にするか(本来は、最初に形を決めているべきですが)をもう一度確認しておきましょう。
 この二つは、買ってきた三板。左(黄色いヒモ)は、業者が作って三味線店に卸しているもの。右(黒いヒモ)は、三味線店が自分で作ったものです。正面から見ると、どちらも角が丸い台形で、特に違いがないように見えます。

 3枚の板をきちんと重ねて、横から見ましょう。違いがわかりますか?
 左のものは、板の厚さが上から下まで同じですが、右のは、上になる方が薄く、下へ行くほど厚くなっています。使いやすさとか、音の違いはよくわかりませんが、左の方が作りやすいことは間違いないでしょう。しかし、私たちは趣味で作るわけです。どうせなら、右のように作りたい、と思いません?

 買ってきた三板は全体に丸みをもたせてあります。これを真似て、形を作っていきましょう。それにしても、この厚さの板をあそこまで削るのは時間がかかりそうです。
 金属製のヤスリや土台付きの紙ヤスリ、そして、作業台を用意して削ります。
 まず、3枚の板を同じ大きさに揃えましょう。同じように切ったつもりでも、少しずつ大きさが違っています。3枚合わせて、ヤスリをかけます。大きさを揃えるついでに、角も丸めておきます。
 ヤスリって、のこぎりで切るときみたいに、しっかりと押しつけてグイッとやらないとはかどりませんね。


 大きさが揃ったら、板の横に中心線を入れます。これを目安にして、丸みをつけます。同時に、上の方(ヒモの穴のある方)を薄くなるように削ります。
 曲面を削るのは難しそう。でも、やってみると案外簡単でしたよ。時間はかかりますけれど。
 上の写真と比べると、ずいぶん丸くなっています。中心線の少し手前まで削るつもりで、片面を処理しましょう。板付きのかまぼこみたいになりました。次は裏側です。
 だいたいできました。削っていない板と比較すると、上の方が薄くなっているのと、丸みがついていることがよくわかります。
 3枚できたら、ヒモを通して結べば完成。
 ですが、今回はヒモを結ぶのではなく、ヒモの長さを調節するためのストッパー(名前は知りません)をつけてみました。古着から流用しました。便利です。

 というわけで、こちらが完成写真です。3つ並んでいるうちの真ん中が手作りの三板。両側のものと比べると、艶がないですけれど、これも味のうちかなと。(写真をクリックすると大きな画像が見られます)
 器用な人なら、もっと装飾をしたり、磨き上げたりして楽しめそうですね。

気がついたこと
 私が使った板は、縦に長いものでしたが、理想的には、左の図のようなものがよかったと思います。
 これですと、切断する回数も減りますし、無駄が少ないですよね。厚さも、最初に書きましたように、10ミリあれば十分かと思います。
 まあ、三板を作って売るわけではありませんので、あまり効率ばかりを考える必要はないでしょう。
 三板のたたき方については、インターネットで検索して楽しいサイトを見つけてください。



GO MOUTH HERE MOUTH ちょいと置きたい
 三線を使わないときに置く場所。これは、三線を持っている人ならどこかの場所に、何かの方法を考えて置いていますよね。
 では、家で三線を使っていて、ちょっとその場を離れるという場合、どうしていますか?
 元通り、ケースの中?三線立てに立てかける?三線掛けを作ってあるから、壁によいしょ?
 本当ですか?本当にそうなら、それはよいことです。ケースの中も三線立ても壁も、誤って三線を壊すような場所ではありませんから。
 もう一度考えてください。昨日三線を弾いているとき、電話がかかってきましたよね。そのとき、ちゃんとケースにしまいました?
 「いや・・・あの、そのときは・・・ほら、電話だから、相手を待たせちゃいけないでしょ。だから、座っていた座布団の上にちょいと置いて、電話へ・・・」
 ね、そういうことがあるでしょう。
 三線を演奏しているときに「ちょいと置きたい」のに置く場所がない。そんな「困った」に、これです。私の自信作、「ちょい置き」

 これが「ちょい置き」です。
 作り方を説明します。ご覧の通り、2枚の板を貼り合わせたものです。片方は厚く、片方は薄い。材質はコルクで、ホームセンターで、最初からこの大きさで売られているのを買ってきました。
 貼り合わせるのに使ったのは、両面テープです。最近の両面テープはボンドなみに強いですよね。
 カッターで切り込みを入れたら完成。5分程度の作業です。
 これまで、三線関連の作業=塗りを剥がしたり、三板を作ったり、バチを作ったりしましたが、その中で一番簡単で一番満足できる仕上がりなのがこれじゃないかなと。
 使い方は、このように座敷机にひっかけるだけ。厚い板の方を上にすることで安定します。
使わないときは、このように本棚の端に掛けておきます。

 コルクで作ったことによって、滑りにくいし安定感があります。また柔らかい材質なので、三線を傷つけることもありません。三線を使わないときには、グラス用のコースターにもなります!

 実は、この「ちょいと置くための道具」のアイデアは私のものではありません。三味線店で見たことがあったのです。そのとき見たのは、木製で三線を乗せる部分がもっと深く、腕のように突き出ている頑丈なものでした。それを見たときは、正直なところ「こんなもの必要なのかなあ」と心の中でつぶやいたのです。
 ところが、最近必要だと感じるようになりました。
 ときどき私の家に三線を持ってくる人がいます。その人たちが、ご自分の三線を床に置いたり、壁に立てかけるのを見て冷や冷やすることがあるのです。いままでに三線を壊したことがないから置き場所に無頓着なのでしょう。私は思いました。そうだ、この人たちのためにも作ろう!と決心して、5分で作りました。
 もう大丈夫です。この「ちょい置き」さえあれば、途中でトイレに立とうと、ケースの中の工工四を取ろうと、鼻をかもうと、ベルトを緩めようと、いつでも三線を立てかけられます。
 でも、作ってからはまだだれも来ません。早く来ないかなー。
 そして、来た人から「こんなもの必要なのかなあ」って、思われるんでしょうね。




GO MOUTH HERE MOUTH 山羊のバチに会いたい
 文字にするというのは、いろいろ難しいものでして。
 今回は、山羊角のバチのお話です。「山羊の角」と書くのが正しいのでしょうけれど、文章にしてみたときに「山羊の角の・・・」と書きますと「の」が多くて見づらくなります。そこで「山羊角」と書かせていただきます。「やぎづの」「やぎのつの」「やぎかく」「ふぃーじゃーちぬ」・・・何と読んでいただいてもけっこうです。
 2006年8月25日
 まだまだ夏真っ盛り。岐阜県にお住まいの知人から、メールが届きました。添付されていた写真がこれです。

 山羊角です。
 研究熱心なかたです。ある本で読んだ「山羊角のバチ」に興味をもたれたそうです。御友人に話をしたところ、そのかたから山羊角を譲ってもらったというのですから、これまた珍しい話です。で、山羊角のバチについての質問が私に届いたわけです。

 返事を出しました。
 さて、山羊の角をバチにする方法ですが、ある三味線店で店主から聞いたことがあります。

 「山羊の角は扁平なので、熱湯で変形させて、指が入るようにする」

 という話でしたが、作業現場を見たわけではありません。
 現在、市販されていないと思いますので、現物を見ることも難しいでしょう。となれば、昔からの三味線店店主に作ってもらうか、手順を聞いて、自分で作るしかありませんね。

 昔、八重芸の部室にあったバチの中に、箏の爪を長く伸ばしたような形のものがありました。つまり、指の入る部分は円筒形ですが、その先は扁平=靴べらのような(靴べらは先端が太いですが、このバチは先が細い)形だったと記憶しています。
 三味線店の店主から山羊のバチの話を聞いたときには、その箏の爪のようなバチが、山羊のバチだったのかもしれないと思ったのですが、今となっては調べようがありません。

 私も興味がありますので、今度沖縄へ行ったときに調べてみます。また、新しい情報が入手できましたら、お伝えしますね。

 学生の頃、部室にはバチを入れた缶がありました。個人のものもそうでないものも、ばらばらとカンの中にバチが放り込まれていました。私は、自分の三線ケースに自分のバチを入れてあったのですが、部室で三線を弾くときは、必ずしも自分の三線とはかぎらないわけでして、そんなときにはカンの中のバチを適当に見繕って使うのです。その中の一つに、山羊角だったのだろうと思われるものがありました。ものすごく軽くて、指を入れる部分が広かったと記憶しています。他のバチはたいてい指が窮屈で、バチを外から掴むようにして使っていましたが、この山羊角のバチだけは、指を入れて落ちつく形。いえ、指を入れないでは使えない形状でした。

 9月8日
 9月に入って、三味線店に立ち寄る機会がありましたので、そこで話を聞いてみました。帰宅してから、知人にはこのように報告しました。
 別の三味線店で、山羊の角のことを聞いてきました。その店主は、実際に作ったことはないそうですが、作り方はご存知で、その内容は、前にメールでお伝えした内容と、ほぼ同じ回答でした。

 お湯で茹でて、やわらかくなったところへ、木の棒(指の太さに削っておく)をつっこんで指が入るように形を整え、それを冷やす(水に漬ければいいとおっしゃいました)。あとは、先端部分を削って整形する。

 やはり、「箏の爪のような形になる」とおっしゃっていました。

 前回のメールと同じようなことしか書けませんでした。反省しました。話をただ聞くだけではわかりません。そもそも、私は山羊角そのものを持っていない。山羊は見たことがありますけれど、角の形状なんて気にしたこともありません。まず、山羊角を入手することを考えるべきなのです。

 インターネットで「山羊 角 販売」をキーワードに検索をかけます。たくさんヒットしました。あちらこちらで販売しているようです。ただ、ちょっと妙なのは「破れた巻物」だの「魔法書」だの、わけのわからないものも一緒に売られています。危うく購入するところでしたが、これはゲームの世界のアイテムでした。
 調べを続けますと、奄美大島の方に「山羊角」を販売しているところがありました。3本セットで3000円。電話して、在庫を確認。購入します。

 9月13日
 山羊角が到着。大小とり混ぜて3本セットが届くはずでしたが、1本おまけしてくれたようで、4本入っていました。
 この時、初めて知りました。山羊角にもいろいろあるのですね。いったい、どれがバチ作りに適しているのか。どれでもできるのか、どれもだめなのか。まったくわかりません。
 でも、これを持って三味線店へ行けば、いままでよりもう少し具体的な話が聞けそうです。

 10月16日
 沖縄へ一泊二日の旅行。この日、三味線店で、山羊角のバチの話を聞くことができました。ここまででわかったことをまとめておきます。
 完成したバチは、円筒の一部を切り落としたような形になる。
 お湯で暖めて丸い棒で整形するとき、棒を一気に押し込むことはできない。暖めては押し込み、また暖めては押し込む。
 どのような角でも使用できるけれど、山羊が大人になるほど角がいびつになるので、子どもの山羊角の方が加工がしやすい。
 三味線店の店主から聞いた「水道管」という言葉で思い出したことがありました。昔、塩ビパイプで作られたバチを見たことがあったのです。そして、その形こそが山羊角のバチだったのです。
 石像を彫るように、一つの塊(かたまり)から削りだしてバチの形を作り上げるのは、水牛角や象牙の場合です。山羊角は、まず円筒形があって、その一部分を切り落とすことでバチになるのです。これでずいぶん想像しやすくなりました。

 10月20日
 いよいよ、製作です。

手元には3本の角があります。どれを使うべきか悩むところですが、とりあえず、一番小さいのを使ってみました。
 写真では大きく見えるかも知れませんが、三つの中で一番小さいものです。真ん中より少し先端に近い部分を使うことにします。
 こんなに小さくなりました。もう少し大きなものを作りたいと思ったのですが、これより下の部分は穴が広すぎますし、先端は曲がっていて使えません。
 切断面を見ると、角の形状がよくわかると思います。
 右は先端側の切り口。山羊角は先へ行くほど扁平になっています。
 左が根元側の切り口。やはりいびつな形です。これでは指は入りません。
 山羊角の表面は、ささくれたようになっています。水牛の角や象牙、鯨の歯などは固まった粘土のようとでもいいますか緻密な感じがしますが、山羊角は皮膚が分厚くなったような感じです。人間の爪にも似ていると思いました。
 いよいよ整形です。
 写真の左に見えるのが、整形のための棒。『山羊角整形器YS500』です。その正体は、500円で買ってきた傘です。
材料:山羊角 7cm

沸騰したお湯に山羊角を入れ、2分ほど茹でる。
ときどき箸で裏返しながら、柔らかくなったら鍋から取り出し、盛りつけ・・・はしません。
 取り出した山羊角を布巾で押さえ、そこに傘の先を押し込みます。力のいる作業ですが、思ったほどではありません。だれでもできそうです。水をかけて冷やすと、確かにその形が保たれるようです。
 傘を抜いてもう一度お湯の中へ。
 暖め直すと、形も元に戻ってしまうのではないかと心配しましたが、そんなことはありませんでした。
 やってみてわかったのですが、傘では細すぎたようです。
 そこで、YS500からYS600に持ち替えます。台所にあった木製の柄のついた匙です。柄の太さがちょうどよさそうでしたので、使ってみました。ずいぶん広がってきました。もう指が入るようになりました。
 先端部の加工に移りました。でも、まだ全体が扁平すぎてうまくいきません。もっと円筒に近づけたい。
 これまでに使ったYS500やYS600よりも、もっと山羊角に適したものを作る必要がありそうです。
 手元には、木製の棒が2本ありました。どちらかを加工して、山羊角整形用に使おうと考えました。左の方が木が柔らかくて加工しやすいのですが、右の長い棒の方が良いでしょう。
 ヤスリを使って30分。なんとか完成しました。YS1000DXと名付けました。
 暖めた角に棒を入れ、また暖めて・・・
 遂に完成。と言うことにしておきましょう。

 お湯に入れた山羊角は、何度か整形器をおしこむことによって、思ったよりも簡単に整形できました。冷やすと元の硬さになるのが不思議です。
 いびつな形のものを暖めて柔らかくし、整形器を入れて形を整え、冷やすとその形に固定される。確かにその通りですが、冷やした後、わずかに元の形に戻るようです。弾力があるからでしょうか。
 先へ行くほど細くなっていることと、肉厚が均等ではないことが、きれいな指穴の形を作りにくくしています。肉厚が均等になるように、削ると良いかもしれません。
 今回使用した山羊角は、比較的肉の薄いものでした。もう少し厚いもので作ると良いかもしれないと思っています。整形は難しくなるでしょうけれど。 




GO MOUTH HERE MOUTH 塩ビのバチも見てみたい
 「山羊角のバチがなくなったのは、水道管が手に入るようになったからさ。ハハハ」

 山羊角でバチを作ろうと思って、三味線店で話を聞いているときに聞いた言葉です。これを聞いて思い出しました。水道管=塩ビ管のバチを使ったことが、昔あった・・・と思います。

 山羊角のバチも塩ビ管のバチも、筒状のものの一部分を切り取って作ります。山羊角のバチを作ろうと計画をしていましたが、まず塩ビ管で練習してから山羊角で本番がよさそうです。塩ビ管の方が安いでしょうし簡単に入手できるはずですから。
 なのに、せっかちな私は山羊角で作ってしまいました。結局、塩ビ管は買わずに時が過ぎていきます。

 ある日、岐阜県にお住まいの知人から「塩ビ管で作りました」というメールが届きました。山羊角のバチの話題を提供してくださったのもこの方でして、メールのやりとりをする中で、塩ビのバチにも話が及んだのです。私と違ってまめな方です。まず塩ビのバチを作り上げたというわけです。
 実はこの方には、ハードケースを改造した記事にも登場していただいているのです。あのケースも見事な改造でしたので、今回の塩ビのバチも期待できそうです。ちょうど10月末にお仕事で関西方面へいらっしゃるということで、そのときに見せていただくことになりました。


BE−01

BE−02

BE−03

BE−04

*BE=(B:バチ E:塩ビ)

 この写真は、2006年11月1日現在の作品です。

 我が家へ来てくださった10月末には、01と02の二つが完成していました。
 01は、私の「山羊角のバチ」の記事を読んで、あとはご自身のイメージで作られたようです。先端は、掛音のしやすさを考えたのでしょう。内側を少し削ってあります。写真ではわかりにくいですが、全体をきれいに磨き上げてあって、艶もあります。極めて完成度の高い塩ビのバチです。

 「これ、売れますよ。原価はいくらです?」
 「さあ、原価は10円程度でしょうか」
 「200円で売って、儲けましょう」
 「だめです。作るのに2時間かかりましたから」

 という会話のあったことを付け加えておきます。

 02は、さらに使用感を良くすることを考えられたのでしょう。先端の外側(弦の当たる部分)を少し削って、角度がつけられています。全体のフォルムは、水牛角のものに近づけてあるのでしょう。

 03は、斬新なフォルムに見えるかもしれません。私が「もっと先端部が扁平だった記憶が」というお話をしましたので、作者が帰宅後に、私のイメージに近い形を作ってくださったものです。というわけで03と04は、私は使用していませんが、作者の話では、

03はペラペラしているので、なんだか落ち着かないし、音も軽いです。ギターピックに慣れている人だったら違和感ないかもしれませんが、水牛になれている私には、やっぱり02が使いやすいような気がします」

 とのことでした。
 形としては、この03が私の記憶の中の「山羊角のバチ」に一番近いのですけれど、使用感はよくなかったようですね。
 さて、これを沖縄の三味線店の店主に見せると、どのような反応が返ってくるのでしょう。「昔はこうだった」と懐かしがってくれるでしょうか。気になります。

 最後に04が完成。今のところ、01から04の中で一番使いやすいのは04だそうです。この後、05を完成させて、いよいよ「山羊角」での製作にとりかかりますというメールの中に「05はプレゼントします」というありがたいお言葉。どんな形に仕上がっているのでしょうね。
 2006年11月4日
 とうとう、我が家に塩ビバチがやってきました。あの作者の第五作。【BE−05】が完成したのです。
 均整のとれた形。掛音にまで気を配った先端の加工。弦の力に負けないようにやや太めにされた中央。見事です。塩ビのバチの最高峰と断言しましょう。既存のバチに満足できなかったみなさん、これは試してみる価値がありますぞ。

 塩ビ管のバチに興味をもったみなさん。材料費も安いですし、加工もそれほど難しくないようです。自分の手でバチを作ってみたいと思っている方は、塩ビ管からやってみるのも良さそうですね。自分の指に合った太さの塩ビ管を見つけて、是非どうぞ。
 ここで、塩ビのバチを作ってくださった知人からのアドバイスを公開いたします。

 バチ先は、1000番のペーパーで成形し、1500番の水ペーパー後、コンパウンド、もしくは金属用研磨剤で磨けばきれいになります。
 でも、1000番を使うときは、充分気をつけてください、1こすりで、形が変わってしまいます。左右均等に成形したいときは、数を数えながらの作業ををオススメします。
(4回こすったから、反対側も4回。という感じ)

 さらに、このようなことも。

 しかし・・・1000番のペーパーで、簡単に形が変わってしまうということは、このバチの寿命が、どれだけ儚いものか想像いただけると思います。

 春の夜の夢のごとし・・・・

 かもしれません。そこまで、使ってないのでわかりません。

 また、さらに。

 最初のバチを作るのに、2時間、
 だったら、次は1時間、次は30分、次は10分とお思いでしょう?

 残念ながら、逆です。
 仕事は極まっていくばかりですから、どんどん時間がかかるようになってきました。

 これはもう、芸術家の仕事ですね。

 このページの最後に一つ。
 作者のお子さんが、「塩ビのバチ」が並んでいるのを見てこう言ったそうです。

 「これって、男子トイレみたいだね〜」

 そして、

 「BEって、BENKIのBEかと思った〜」

 親子の絆を感じる、すばらしい会話です。



GO MOUTH HERE MOUTH 漆を塗りたい
 漆の塗られていない三線が好きです。
 でも、塗らないままですと、心配です。こういうのを、貧乏性というのでしょうか。

 三味線店から三線を受け取ったときに、
 「一応、漆で拭いておいたから」
 と言われました。何のことかと思いました。調べてみますと、漆塗りの技法の一つに「拭き漆」というのがあるそうです。そのことらしい。
 自前で漆塗りまでやってしまう三味線店はほとんどありません。その三味線店も、普通は塗りに出しているはずなのです。なのに、私の手元にあるこの三線は、三味線店店主が「拭いて」くれたものだと言います。
 さらに調べますと、漆塗りの技法の中でも「拭き漆」(「擦り漆」とも呼ぶそうです)は比較的簡単で、初心者向けなのだそうです。三味線店の店主も、「仕上げにちょっと」やってくれたということでしょうか。

 我が家には、塗られていない三線があります。一つは、まったく塗らない状態で購入したもの。もう一つは、私が塗りを剥がしたものです。十分に「木の肌」を楽しみましたので、そろそろ塗ってみたいと思っていたのでした。

 そこへ、さきほどの「拭き漆」の棹を手にしたわけです。この棹、なかなかよい手触りです。塗っていないように見えますが、ある程度艶があり、それでいて、木のような肌触りも残っています。保護と美観と手触り。つまり、漆で木を保護し、漆の美しさもあり、手触りも滑りすぎずに楽器として良い。私にとっては理想的な塗りだと思いました。これが自分でできるのなら、是非やってみたい。

 鮒(ふな)釣りを趣味している人の中には、ウキを自作する人がいます。ウキに使う塗料が漆です。(代用品もありますが)ということは、趣味で漆を塗る人だっているはずです。インターネットで調べてみました。すると、発見したのです。「擦り漆」の方法が書かれたサイトを。そして、そのサイトには、初心者用の「拭き漆入門セット」なるものが販売されていたのです。


2005年5月某日
 インターネットで「拭き漆入門セット」を注文しました。セットが届くまで、インターネットでいろいろと調べてみます。このような「入門セット」は、いくつかの店が販売しているようですね。それだけ「拭き漆」は初心者向けだということでしょう。

 二日後、セットが届きました。ワクワクしながら作業の準備です。

○セット内容
 まず、届いたものを確かめます。
 生漆(チューブ入り100g)、テレピン油(500t)、樹脂製のヘラ、小皿、耐水ペーパー、紙二種類、ゴム手袋、説明書
 たったこれだけです。
 普通の漆塗りをするためには、下地を作るための材料が必要になりますし、塗るための刷毛、磨くための砥石などが必要になるそうですが、拭き漆はこのセットだけでできてしまいます。あっけないほどです。

○棹
 ここでは、棹に塗るわけですから、棹を用意します。私は二本の棹に塗ってみることにしました。それぞれA、Bと呼びましょう。
 Aは、もともと黒塗りされていたものです。天のあたりの塗りが剥がれてきましたので自分で全部剥がしてしまいました。その様子は「塗りをはがすのは恐ろしい」をご覧下さい。
 Bは、まったく塗らないまま購入したものです。削ったままの木です。

 そして、もう一つ。漆塗りに無くてはならないものがあるそうです。漆室(うるしむろ)です。

 漆室とは?
○漆室(うるしむろ)
 どんな塗料でも、塗ったら乾かしますよね。
 漆だってそうです。塗ったら乾くのを待ちます。「乾く」と書きますと「乾燥」を想像しますが、漆の場合は違います。
 漆を乾燥させるためには、温度(20〜25度)と湿度(70〜85%)が重要だそうです。つまり、湿度が高くなければ「乾かない」のです。どうやら、漆が乾くというのは、漆の水分が空気中に出て行くのではなくて、空気中の水分を取り込んで漆が変化することらしいのです。その変化によって、硬く美しい漆の塗膜ができあがるのです。
 漆を乾燥させる環境は、先ほど書いたとおりです。温度はともかく、この湿度を保つには、普通の部屋の中では無理です。そこで、「漆室」が必要になります。拭き漆は簡単な工程ではありますが、漆である以上は漆室が必要なのです。

 「拭き漆」のセットには、説明書も入っています。そこには、漆室は衣装ケースなどプラスチック製の容器で代用できることが書かれていました。もともと、このセットは趣味でお皿などの小物を作った人が、仕上げに漆を塗ることを想定しているようです。ですから、衣装ケースくらいの大きさがあれば、お皿数枚は簡単に「乾燥」させることができる。
 しかし、私は三線の棹に塗るわけです。衣装ケースには収まりません。漆室についてインターネットで調べてみますと、「丈夫な段ボール箱でも可能」とありました。そこで、自作することにしました。



 段ボール箱を二つ用意しました。写真のように穴を開け、縦に積み上げます。この中に棹をぶら下げようというわけです。
 一番下には、トレーに濡れたタオルを敷いたものを置くようにしました。これで湿度が上がるはずです。
 

 フタの部分は、段ボールの板を二枚張り合わせたものです。それを左右二つに切って、それぞれの真ん中あたりに、棹の芯が通るように穴をあけます。そこに芯を通して「せんたくばさみ」のようなもので挟んで、漆室の中にぶら下げるというわけです。このせんたくばさみは「ラチェットクランプ」という名前でホームセンターに売られていた物です。しっかり挟めて便利でした。

 湿度計も取り付けました。この作業で、一番お金がかかったのは、この湿度計でした。
 濡れタオルを置いてから、しばらく待って湿度計を見ます。が、湿度は50%程度です。低すぎます。この日は晴天で乾燥していたせいもあるでしょうけれど、おそらく、段ボール箱が湿気を吸収してしまっているので湿度が上がらないのでしょう。
 そこで、一度箱を切り開いて、内側にゴミ袋を貼り付けることにしました。再度組み立ててみます。これで段ボールが湿気を吸うこともありません。
 ところが、いくら待っても湿度は思ったように上がりませんでした。
 本来の漆室の場合、湿度を上げるために濡れた雑巾をぶら下げたりするのだそうです。ぶらさげる・・・なるほど、濡れたタオルを箱の底においてあるだけでは、水が空気に触れる面積が狭いのでしょう。ならば、タオルをぶらさげるようにして、面積を広げればよいはずです。そこで、また箱の一部を切り開いて、中にタオルを広げられるようにしてみました。その結果、湿度は70%を越えました。これで完成です。

 完成した漆室に、棹二本をぶら下げた状態。
 温度の方は、この時期ですと部屋の中に置くだけで問題なさそうです。もし、冬場にやろうと思ったらたいへんでしょうね。
 私は大阪で作業しているわけですが、沖縄の気候は漆塗りに向いていると思いました。

 いよいよ、漆塗りに挑戦です。

○工程
 拭き漆は、

 漆を塗り〜拭き取り〜乾燥させる

 これを繰り返すだけです。塗って拭き取ってしまっては塗った意味がなさそうに思いますが、漆はとてもよく伸び、木地になじむ塗料ですので、すべてが拭き取られてしまうわけではありません。これを繰り返すと、徐々に漆の塗膜が完成されていくようです。
 普通、漆を塗るときにはヘラや刷毛を使うそうですが、拭き漆の場合は紙(柔らかくて毛羽立ちにくい物)を使って塗り伸ばしても良いようです。拭き取りも紙です。これらは、セットの中に入っていましたので、特に気を使うことはありませんでした。(セットでは、塗り伸ばす紙と拭き取る紙は別の種類になっていました)

 4〜5回。あるいは10回程度と書いてあるサイトもありました。同じ作業の繰り返しですから、やってみて、何回でやめるかを考えることにします。
 一つ補足しておきます。塗って拭き取るという作業を繰り返すと書きましたが、一日で何度もできるわけではありません。一度塗って拭き取ったら、それを乾燥させるために一日漆室に入れます。つまり、10回繰り返したければ、十日間かかるわけです。気長にがんばります。


※第一回
 両手にゴム手袋をはめて、最初の作業です。
 まず、棹の汚れをとります。目の細かな紙ヤスリで木地を滑らかにすることになっていますが、三線の棹は十分に滑らかです。そこで、汚れを取る意味で、紙で綺麗に拭くだけにしました。
 漆を用意します。
 一回目だけは、生漆をテレピン油で薄めてから使うように書かれていました。とにかく説明通りにやってみます。

 生漆をチューブから出します。どれくらい出せば良いのかがわかりません。少し遠慮気味に出しました。
 歯磨きよりも柔らかく、蜂蜜よりも少し硬いくらいでしょうか。黄土色をしていますが、空気に触れると、黒褐色に変色していきます。それにテレピン油を目分量で漆の3割くらい足します。ヘラでしっかりと混ぜました。

 よく混ざった漆を、紙で少量すくい取ります。それを棹に塗りつけます。さて、どこから塗ればよいのか。左手は芯を持っていますので(芯は塗りません)、手に近い方=チマグのあたりから上に向かって塗ることにしました。面白いように漆が伸びていきます。でも、上から塗る方がやりやすそうです。二回目からは上からにします。

 本当によく伸びます。生漆は遠慮気味に出したつもりでしたが、十分な量でした。
 糸巻きの穴、歌口のはまっていた溝など、漆を塗りたくない部分もありますが、あとで削ることもできるので、あまり気にしないで塗り伸ばします。
 全体に塗ったら、拭き取ります。紙に茶色い色がつきます。べったりとつくのではなくて、汚れがついているという程度です。

 できました。あっけないくらい簡単でした。塗る時間なんて、5分程度でしょうか。でも、これでよいのでしょうか。見たところ、もとの棹とあまり変わっていないようですけれど。とにかく、漆室に入れます。
○失敗

 漆室は、ずいぶん工夫をして良いものができたつもりでした。湿度はほぼ期待通り。でも、温度調節は気温まかせです。5月末でしたので、家の中は20度程度でした。でも、もう少し温度を上げたい。
 夜。家族全員が風呂に入ったあとで、明日の夕方までは誰も風呂を使いません。浴槽にお湯が残っていますので、浴室はほのかにあたたかい。しかも、湿度が高い。
 私の漆室は、段ボール製でたいへん軽いのです。そこで、棹を二つ入れたその漆室を、浴槽のフタの上に置くことにしました。これで温度も湿度も問題なし。

 でも、これがいけませんでした。翌日、気になって、棹を漆室からそっと取り出しますと・・・なんと!表面に水滴が!!
 あたりまえです。部屋に置いてあった漆室を、暖かくて湿度の高い浴室に移動させたのですから。寒い日に、暖かい室内に入ると、メガネが曇る。同じ原理です。
 どうしたらよいものか。とにかく、布で全部拭き取ることにしました。まだ完全に乾いているわけではなかったようです。一生懸命拭き上げて、その夜、もう一度最初からやり直しました。

○その後の作業

 失敗に懲りて、その後は漆室を浴室に持ち込むようなことはしませんでした。
 漆が乾燥したかどうかは、見た目と手触りでわかるようです。塗って拭き取った状態は、少しべたつくような感じがありますが、一日漆室に入れて乾燥させると、木の肌のような感触になります。
 失敗した初回を一回目と数えて、二度目、三度目までは、もとの棹の色とほとんど違いが感じられなくて、「塗っている意味があるのか」と心配なりましたが、四〜五回目になりますと、見るからに「漆を塗った」という色になってきました。そして、八回目には光沢も出てきました。
 私の場合、普通に販売されている漆塗りの棹のように「ツルツル」してしまうのがいやでしたので、ここで終了としました。黒光りはしていますが、触った感じは「塗りました」というほどツルツルしていません。まずますの出来映え。としておきましょう。
 塗りが終わったら、元通りの三線に組み立てます。歌口をはめ込む溝に入った漆は、カッターで削りました。歌口は問題なく取り付けられました。糸巻きをつけてみますと、少しぬるぬるした感触になりました。そこで、糸巻きを通す穴を、リーマー(左の写真)で軽く削ってみました。すると、以前のように気持ちよく使えるようになりました。
 拭き漆というのは、厚い塗膜をつくりませんので、もとの三線に組み立てるときにも問題が出にくいようです。


○反省とまとめ

 拭き漆は、三線の棹にとても良い方法だと思います。
 ただし、自分でやるにはいくつかの点で注意が必要です。

1,漆室を工夫する
 棹は長いので、衣装ケースのようなものでは収まりません。やはり、自分で作るほかありません。

2,作業する季節を考える
 漆の性質から、冬場や真夏はあまり向かないでしょう。二十四時間エアコンで調整するのでしたら可能かも知れませんが、漆の乾燥に向いた湿度と温度は、人が暮らしやすい環境とはいえませんので、エアコンで調整するのは現実的ではないと思います。

3,木地をきれいに
 もし、下地に凹凸があると、漆を塗っても凹凸が表面に出てしまいます。棹の場合は、そのような部分はないはずですが、気になる部分があれば、紙ヤスリなどできれいにします。
 漆を塗るのですから、棹の小さなキズなんて埋まってしまうだろう。と思ったのが間違いでした。完璧な仕上がりを求めるのでしたら、たとえ髪の毛ほどの小さなキズでも、接着剤できれいに埋めてから塗るべきです。この点は、次回の課題・・・次回があれば、ですが。

 おもしろい経験ができました。結論としては、やはり、塗りは塗り屋。となりますか。
 でも、自分で塗ったという満足感は得られますし、使用上も外観も、細かいことを言わなければ問題ないでしょう。もし、自作の棹があるのでしたら、拭き漆は良い方法だと思います。