GO MOUTH HERE MOUTH 紫檀の手違い

 産地を偽装したり、原材料名を偽ったりといった問題は、食品の世界だけにとどまらないのでしょうね。

 「偽装」と書きますとそこに悪意を感じるのですが、いや、もちろん悪意をもって偽装する人がいるのでしょうけれど、三線の世界では何が正しくて何が間違えているのか、はっきりわかっていない店主がいるようです。この文章を書いている私自身、きちんとわかって書いているわけではありませんので、はっきりとした答が書けるわけもないのですが、見聞きしてきたことを書いておきたいと思います。

 この文章を読んでくださったかたの中には、植物に詳しくて正確な分類を求めておられる方もいらっしゃるでしょう。まったく違う分類をされている方もおられるかもしれません。私は私の分類が正しいから私の言う通りに判断しなさいなんて言っていません。一つの情報としてご覧いただければと思います。
 また、三線を販売する店は材料の名前を正確に表示すべきだという考え方には同意します。ただ、現状ではそれが非常に難しいということも言えるわけでして。この文章が何かの役に立てば良いのですが、かえって混乱させてしまうようでしたら、どうぞご遠慮なく、無視してくださいね。



 では、そろそろ本題に。


 紫檀の三線。私の知る限り、30年前には見ませんでした。なんて書きますと「いやいや、昔からあったよ」と言う人もいらっしゃるでしょう。はい。そうだろうと思います。紫檀も紅木も、松も桜も、それはそれは、あらゆる木材で三線が作られてきていると思います。ただ、お店に普通に並べて売られている三線には、紫檀は無かったと思います。それでも「いや、あった」とおっしゃるなら、それでいいんです。別に何も問題はありませんので。

 当時は、三味線店に行っても、その材質を表示して売っていることは少なかったように思います。もちろん、店主に尋ねれば教えてくれたはずですが、とにかく高級品は「黒木(くるち)」、安いのは「ユシ(木)」ですまされていたようです。
 この「ユシ」というのは「いすのき」だということになっているのですが、なかには「ユシというのは違う木、つまり黒木ではないという意味だ」なんて説明してくれる人もいたりして、必ずしも一つの樹種を表さなかったかもしれません。

 さて、話を紫檀に戻しましょう。
 私が紫檀の三線をよく見るようになったのは、1990年頃からでしょうか。大阪のデパートの「沖縄物産展」だったのではないかと思うのですが。今では「紫檀の三線」がよく売られています。
 HPを公開してから、何度か三線購入についての質問を受けています。その中に「紫檀の棹はどうなんですか?」あるいは「紫檀の三線が○○円といわれましたが、高いのでしょうか」という質問がありました。どうなんでしょう。

○黒檀を考える
(1)唐木って何?
鉄刀木
 (タガヤサン)
紫檀(本紫檀)
 まず、「唐木(からき)」のお話。
 唐木とは、一般に「黒檀」「紫檀」「鉄刀木」「花梨」などを指します。東南アジアで産出されたものが、中国(唐)を経由して日本に入ってきたので、「唐木」とよばれるようになったとか。このことからも、ずいぶん昔から日本に持ち込まれていたことがわかります。
 硬く、耐久性に優れ、磨き上げることで美しい仕上がりになります。歴史の教科書でご存じの正倉院には「螺鈿紫檀五弦琵琶」など、唐木を使ったものがいくつかあるそうです。奈良時代に日本に伝わった唐木の美術品が今に残っていることからも、その材の優秀さがわかります。
 私たちは、黒木(黒檀)という言葉を聞いただけで、三線を想像するわけですが、世間一般、特に沖縄県外でしたら、三線よりも仏壇を思い浮かべる人の方が多いかもしれません。ためしに、インターネットの検索をしてみてください。「黒檀」でヒットするHPに、仏壇店が多くてびっくりです。
 その仏壇店の商品を見ますと、「黒檀」と並んで「紫檀」が高級品として扱われていることがわかります。値段も似たようなもの。ということは黒檀と紫檀は同じくらいの価値がある。まあ、同じ「黒檀」でも質の違いはあるでしょうし、それは紫檀にもいえることだというのはわかりますが、どちらも同じくらい「高級品」だと考えて良いでしょう。

(2)コクタンと呼ばれる木
 このHPをご覧のみなさんは、黒檀にもいろいろな種類があることをご存じだと思います。真っ黒な黒檀もあれば、縞模様の入ったのもある。値段もいろいろです。
 縞模様の顕著なものは「縞黒檀」と呼ばれます。縞黒檀は「カキノキ科」なのだそうです。
 縞の目立たない、真っ黒なものには「本黒檀」「真黒(マグロ)」「青黒檀」「アフリカ黒檀」などと呼ばれているものがあります。と、えらそうに書いていますが、じゃあ、それらの違いがはっきりわかるのかと言われると、私のような素人には難しいです。

 私が材木店で見たアフリカコクタンは、黒檀とは区別がつきました。芯の風合いが、本黒檀などとは違っているのです。原木の形もまったく違うそうですし、材木店もきちんと分けています。普通、黒檀は「カキノキ科」ですが、「アフリカコクタン」と呼ばれるものは「マメ科」だそうです。

 私は、このページを書くために二つの材木店でお話をうかがいました。もちろん、ネットでも調べてみました。その結果、「本黒檀」と「真黒」の区別が店によって違っていることがわかりました。
 一つの店は、「アフリカコクタンを真黒と呼ぶ」という考えでした。「真黒=アフリカコクタン」だとすると、「真黒」はマメ科となります。
 もう一つの店では、「真黒」「本黒檀」「アフリカコクタン」を別扱いにしていました。この店の「真黒」はカキノキ科ということです。しかし、話をうかがったところでは、「真黒」と「本黒檀」のはっきりした違いがわかりませんでした。輸出国の表示の違いかもしれません。それを表にします。

 文章だけですとわかりづらいと思います。それぞれの木の写真と、呼び名を表にしてみます。
 写真は、三味線店や材木店のご厚意で撮影させていただきました。写真では、色合いや艶などの印象が実物と違う場合がありますので、ご了承ください。

 下の表に表した分類のしかたは、私が材木店や三味線店で聞いたものです。必ずしも正しいとは限りません。
 「A店、B店」は、特定の会社や店舗を指すのではなく、分類の仕方の例として並べただけです。
 情報は2000年頃のものです。木材の輸入状況は年々変化していますので、みなさんがこれを読んでおられる時には違った状況になっているかもしれません。

材木店 A 材木店 B 三味線店 A 三味線店 B




リュウキュウコクタン
(ヤエヤマクロキ)
(扱わない) (扱わない) 八重山黒木
(エーマクルチ)
高級な棹材
八重山黒木
(エーマクルチ)
高級な棹材




縞黒檀(シマコク)
縞黒檀。
単に「黒檀」とも。
仏壇、楽器など、広く用いられている。
縞黒檀。
単に「黒檀」とも。
仏壇、楽器など、広く用いられている。
カマゴンとも呼ぶ。
縞黒檀。シマコク。
棹の材料として使われるが、中級品。
(10万円内外)
縞黒檀。シマコク。
棹の材料として使われるが、中級品。
(10万円内外)




カマゴン
カマゴン。上の縞黒檀とは区別する。 カマゴン。
縞黒檀とも。
上の「縞黒檀」と区別しない。
カマゴン。上の縞黒檀とは区別する。 カマゴン。
縞黒檀とも。
上の「縞黒檀」と区別しない店もある。
縞黒檀より安いのが普通。




本黒檀
本黒檀。
仏壇、楽器など、広く用いられている。
本黒檀。
仏壇、楽器など、広く用いられている。
黒木。
棹や糸巻きの材料。
黒木。
棹や糸巻きの材料。




真黒(マグロ)
真黒(マグロ)。
上の本黒檀とは区別する。
本黒檀。
上の「本黒檀」と区別しない。
黒木。
棹や糸巻きの材料。
黒木。
棹や糸巻きの材料。




青黒檀
青黒檀(アオコク)
工芸部材、三味線の糸巻きなど。
青黒檀(アオコク)
工芸部材、三味線の糸巻きなど。
普通は使われていない。 普通は使われていない。


アフリカ黒檀
アフリカ黒檀。
花台、楽器などに用いられる。
アフリカ黒檀。
真黒(マグロ)とも。
花台、楽器などに用いられる。
普通は使われていない。 普通は使われていない。

上から、縞黒檀
アフリカ黒檀
青黒檀の棒
左 本黒檀
右 真黒
本黒檀と真黒の
拡大写真
 黒檀を並べて比較してみました。

 本黒檀と真黒は、板になると区別がつきませんが、こうして原木を並べてみるとわかるような気もしてきます。気がするというだけで、やっぱりわからないんですけどね。

 これまた曖昧な話で恐縮ですが。本黒檀は、縞黒檀の縞の目立たないものという考え方もあるようです。つまり、本黒檀も縞黒檀も同じ種類で、生育環境の違いなどで個性がでただけ。本当でしょうか。さらに話をややこしくしますと、「カマゴン」と呼ばれる木も「縞黒檀」や「本黒檀」と同じ種類だと言う人がいます。私には、とても同じには見えないのですが、種類が同じでも環境が違えば見かけも驚くほど違ってくるというのはあり得ることですね。
 ただ、「同じ樹種だから同じ扱い=材質が同じで値段も同じ」で良いのかと言いますと、それはちょっと違うと思っています。
 仮に、世間で言うところの「縞黒檀」と「カマゴン」が同じ樹種だから同じ値段で販売されているとしたら、私なら間違いなく「縞黒檀」の方を購入します。一般的に「カマゴン」として売られている材木よりも「縞黒檀」の方が締まっている感じがします。それに「カマゴンは板にすると曲がりやすい」という材木店の店主の話を聞いたことがあります。まあ、三線のような棒状の製品なら簡単に曲がらないかもしれませんが、それでもやっぱりどちらも同じ値段なら、私は「縞黒檀」ですね。


 「黒檀」と呼ばれるものは一つの種類の木ではなくて、黒檀として使えるいろいろな木の呼び名といえそうです。「黒檀」とは「黒檀のような木」あるいは「黒檀として扱える木」ということになりますか。そして、これら黒檀の呼び方も人によって(材木店、三味線店によって)違いがあるということがわかっていただけたことと思います。そして、仮にカマゴンも縞黒檀も同じ樹種だとしたら、樹種が同じであっても、産地や生育環境の違いによってその見た目や質に明らかな違いがあれば、販売店では別の名前を付けて販売することがあるということになります。
 ですから、ここに私が書いている分類も、正しいかどうかではなくて、こういう名前で区別して売っている店がある。という情報として見ていただきたいのです。

○紫檀を考える
本紫檀
 またまた紫檀から話が遠くなってしまいました。紫檀に戻しましょう。
 インターネットで調べましたら、「本紫檀」のほかに「手違い紫檀」「アフリカ紫檀」の名前が見られました。これは、「黒檀」が、一種類の木を指すのではないのと同様に、「紫檀のような風合いをもつ木」が「紫檀」という名前で売られてしまう可能性があるということなのです。いえ、「売られてしまう可能性」ではなくて「売られています」と書いておきましょう。
 写真は、本紫檀の板です。これを見て、「紫檀はこういう色なんだ」と決めつけてはいけません。写真と実物では印象が変わってきますので。それに、木は同じ種類でも生育環境によって違いがありますし、古くなると色が変わってくるそうですし。なにより、仕上げ(磨き方や塗装))によっても風合いが大きく変わりますので。


(1)お三味線の世界
 邦楽のお三味線の世界では、お稽古用の棹は「花梨(かりん=のどに良いカリンとは別だそうです)」次に「紫檀」、最高級は「紅木(こうき=紅木紫檀とも)」というのが普通だそうです。
 大阪のお三味線の店で聞いた話です。最近は紫檀の三味線はほとんど売っていないのだそうです。「紫檀」(この場合は本紫檀)が手に入らない。手に入っても値段があまりにも高くて紅木との差が縮まってしまって「それなら紅木にしよう」と考える人が多いようです。結局、お稽古用の「花梨」の次は「紅木」というのが現状のようです。紫檀はそれほど貴重品になってしまっているわけです。
 私が見せて頂いた紫檀の三味線(上)は、明るい赤ではなくて、やや紫が入ったような色でした。
 紅木(下)は、その名の通り紅色です。でも、使い込んだものは黒くなっていくそうです。
 ※写真は、ライトや周囲の色の影響を受けてますので、実際に見たときの色とは多少違っていると思います。

 このお店で紫檀の木片をいくつか見せていただきましたが、その色は様々でした。すべて間違いなく樹種として同じ紫檀なのか。それとも、別の種類だけれど「紫檀として扱われている木」なのか。私にはわかりませんでした。


(2)紫檀の三線?
 最近(2000年頃)では希少すぎて邦楽の三味線の世界にも出回らない「紫檀」。なのに、沖縄では「紫檀の三線」が売られています。
 黒檀(の棹)の三線ならば、10万円とか20万円とか、もっと高いものだってあります。だったら紫檀の三線だって、同じくらいの値段になるはずですよね。ところが紫檀の三線は私の知る限り普及品価格なのです。私は10万円以上の値段で紫檀の三線を買ったという話をまだ聞いていません。だいたい5万円というところです。(もっと高い紫檀の三線を買ったかたがいらっしゃいましたら、きっとその三線には良い紫檀が使われているのでしょう。そう思ってください)
 「紫檀の三線」が「本紫檀」かどうか。私には見極める目はありませんが、黒檀の仏壇と紫檀の仏壇では、あまり値段の違いがないこと(紫檀だから○○万円、と決まっているわけではないでしょうけれど、おおよそ黒檀と同程度のようです)や、先ほど書きましたお三味線の世界の現状を考えれば、紫檀の三線が本紫檀を使っているかどうか、想像がつくと思います。

 だから、紫檀の三線はだめなのか?といいますと、それとこれとは話が違うわけです。
 「紫檀(?)の三線」が、本紫檀なのか、手違い紫檀なのか、手違い紫檀ですらないのか、わかりません。でも、その「紫檀(?)の三線」が三線として優秀ならば、どの紫檀であっても(紫檀でなくても)、問題ないわけでしょう。
 でも、やっぱりいやですよね。騙されているような気がしますよね。

【補足】
 紫檀の三線を売っている三味線店には「騙す」気持ちなどまったくないと思います。「紫檀」として仕入れた木(あるいは棹)で三線を作ったから「紫檀の三線」として売っているのでしょうから。そう信じたいです。


(3)紫檀(?)の評価
 紫檀は唐木ですので、耐久性に優れているはずですし、美しいはずです。棹に向いていると思うのですが、さて、「紫檀(?)の三線」の評価はどうなのでしょうか。
 ずいぶん前に、紅木の三線について話をうかがったことがあります。私の知人の間ではあまり評判はよくないようです。お三味線の世界では最高級品である紅木が、三線の世界ではどうして受け入れられないのか。黒木信仰のせいかもしれませんし、そもそもお三味線と三線とでは、求める音が違うからなのかもしれません。あるいは、三線に用いられた紅木が粗悪なもので(あるいは紅木に似ているだけで違うもので)、本当に良い紅木を使えば(私が見た紅木の三線は数万円でした)すばらしい三線ができあがるのかもしれません。
 紫檀についても、あまり良い評価を聞いていません。でも、ほとんど見ない紅木の三線に比べて、紫檀(?)の三線はお店でよく見ます。
 「紫檀」という言葉はよく知られていますし、三線になっている「紫檀(?)」はそれほど高くない。名前のわからない材木で作った三線よりも、売りやすいというのが、紫檀(?)をよく見る理由なのかもしれませんね。

【補足】
 紅木の三線を高く評価する店もあるようです。よい紅木なのかもしれません。特別な技術をもってよい三線に仕上げているのかもしれません。でも、紅木の三線を作っている(売っている)店は増えていないように思います。



 メールで「紫檀」についての質問をいただいて、いろいろ調べてみたわけですが、さて、結論としては、どうお伝えすればよいのでしょう。

○紫檀、黒檀とのつきあい方

(1)三線の価値
 価値ある木でできた三線は、価値ある三線である。
 今売られている三線の値段の違いは棹に使われている材料の違いですから、このように言ってもよいはずです。角材の状態で一本数十万円という木で作った三線は、当然高級品なのです。

 さて、本紫檀ではないものも紫檀と呼ばれる。なんだか、騙されたようで気分がよろしくない。ですが、私は、三味線店を信じています。前に書きましたように、安い紫檀(?)の三線が売られているというのも、その信頼を裏切っていないわけです。安く仕入れた物だから、安く売っているのです。「紫檀」の名をかたって、暴利をむさぼるような店ではないということですよね。ですから、購入者も、五万円で買った三線を「これは紫檀だから10万円の値打ちがある」などと思ってはいけません。

 黒木(黒檀)も、考えてみるとおもしろいものです。輸入された黒檀の中で、三線になるのはほんのわずかで、それ以外に使われるものの方がはるかに多いはずです。つまり、「三線に適しているかどうか」で輸入されるのではないのです。床柱や突き板や工芸品に都合の良い黒檀が輸入され、その一部が三線店に行くのでしょう。
 黒檀の値段というのは、輸入されるときの値段と、それが工芸品として優秀かどうかで決まるのではないでしょうか。とすれば、安い値段で輸入され、しかも工芸品としては二級品であっても、三線の棹を作ると一級品!なんて、夢のような木が見つかるかも知れません。
 とりあえず、黒檀で棹を作れば良い三線になりそうだと考えているみなさんも、今の世の中、その黒檀の中から「安くて良いもの」を選ぶチャンスがころがっている、かもしれませんよ。


(2)購入するときは
 三線を購入するに当たって、私たちは紫檀や黒檀をどのように考えればよいのでしょうか。
 一つは、「紫檀」や「黒檀」といった名前を信用して購入するという方法です。
 紫檀や黒檀にもいろいろあって、「本紫檀」にはなかなか出会えないことや黒檀でも安い物があると書いてきました。それでもなお、「紫檀」や「黒檀」といったラベルを信用してよいのでしょうか。
 たとえば、紫檀(?)の三線は「本紫檀」ではないからだめなのか。いいえ、だめではありません。この記事の中で「あまりよい評判を聞かない」とかきましたが、これは「紫檀」という高級そうな名前にしては、高級そうな音にならないという意味だと思います。比較的安くて、それでいて「紫檀」の名前をつけられるくらいしっかりした材なのでしょうから、得体の知れない木よりも安心できそうです。値段との釣り合いを考えれば、悪くないと考える人もいるはずです。インターネットで調べたところでは、手違い紫檀もアフリカ紫檀も、紫檀という名前を付けたくなるくらい美しくて丈夫なようです。「本紫檀」とはちがっているけれども、材木としては良いものなのでしょう。

 黒檀についても、同じことが言えます。「黒檀」というラベルが貼られる(店主が黒檀と呼ぶ)ような木であれば、たとえ安いものであってもそれなりの素質があると考えられるわけです。
 材木や三線について素人である私たちは、とりあえず名前を信じて、そこから三線を選んでいくという方法も悪くないはずですよね。ただし、素材の名前ばかりを気にして、三線そのものを見ないようではいけません。

 もう一つは、「紫檀」も「黒檀」も、まったく信用しないという考え方です。
 三線にしたとき、音が良くて丈夫で変形しなければ、紫檀とか黒檀とか、名前なんて関係ない。色なんて、どうせ黒い漆を塗ればわからないですから。
 これだけいろいろな国からいろいろな木材が入ってきますと、材木店でも分類に困るような材木があるそうです。「黒檀を仕入れたのに、中に一本、不思議な木が混じっていた」なんてこともあるとか。
 まだまだ新しい木材が輸入される可能性がありますし、今輸入されている木材の中にも、黒檀や紫檀よりも三線に適したものがあるかもしれない。
 輸入材だけではありません。もともと、沖縄の三線は黒木以外にも「ユシギ」「桑」「ウーヌファーカチャーギー」「ハマシタン」など、様々な種類が使われてきました(ただし、あまり販路には乗らないようですが)。黒木よりも低く見られがちな木材から、自分にとって最高の三線ができあがるかもしれない。
 だったら、黒木信仰から完全に解放されてみるのもいいかもしれません。ものすごく安くて、ものすごく音のよい三線が手に入る可能性もあるわけです。
 自分の目と耳だけを信じて、ラベルに惑わされない。究極の消費者と言えるでしょう。しかし、過信は禁物。プロである三味線店のお話もきちんと聞くべきでしょう。

 「だから、どうすればいいんだ!」
 質問者からお叱りを受けそうですが、最後の判断はご自身でお願いします。
 いつも、あいまいなことばかり書いてすみません。


GO MOUTH HERE MOUTH ユナーは偉い
 ユナー。つまり、三線の与那城型のことです。これは、偉いです。どこが、どう偉いのか。

 邦楽のお三味線には、男性向きと女性向きがあったそうです。
 おそらく、現在はよほどの高級品でなければ注文生産のような形をとらないでしょうから、そういう区別をあまりしないのかもしれません。

 男性用は、棹が太い。女性用は細い。と書いてしまえば、ああそうか。で終わりですけれど、もう少し深みのある話です。
 邦楽の三味線には太棹、中棹、細棹という分類があります。ジャンル毎に使う棹が決まっています。では、どうして男性用と女性用があるのか。それは、例えば「中棹」ではあるけれど、女性にはやや細め。男性にはやや太め。という理解で正しいのでしょう。そして、なぜ男性の方が太いのかといえば、手の大きさや体力といったことが関係しているのだろうと想像できるわけです。

 ある日。邦楽の三味線店で、店主からこんな話を聞いたのです。

 話の発端は、「かんべり」でした。邦楽の三味線では、長年使用していると「かんべり直し」が必要になります。つまり、三味線の上場(うわば)=三線でいうところの「トゥーイ」が傷む(弦の跡がついたりする)ので、きれいに削り直す必要があるわけです。その「傷んだ上場」を「直す」ことを、「かんべり直し」と呼ぶのです。

三味線によっても違うのでしょうけれど、何回くらい『かんべり直し』ができるものなんですか?」
うーん。人によって違いますね。少し傷ついただけで直す人もいれば、けっこう酷くなってからじゃないと直さない人もいますから」 
なるほど。ある人が二回直すところを、ある人は一回で済ませることもあるんですね」
そうそう。それに、人によって減り方も違います。弦を棹に強く擦るように押さえる人もいれば、弱い人もいる。男性と女性でも、ずいぶん違うものです。だから、昔は男性用と女性用では、少し太さが違っていたものですよ」

 かんべり直しは、棹を削る行為ですので、何度もやっていると棹が細くなってしまいます。自ずと限界があるわけです。そこで、男性は棹が減りやすい→太くしておいて、かんべりを直しても余裕がある。ということなのだと思ったのです。これは、半分しか正しくありませんでした。

 「ということは、男性用の方が、棹の厚みがあったということですか?」
 「いえ、そうじゃなくて、少し張りだしているという感じですねえ」

 数分間、店主から説明を受けて、やっと意味がわかりました。
 下の図は、棹の断面です。左が女性用、右が男性用。かんべりを直すと、棹の表面が削られて、赤い矢印へと上場(うわば)が下へ降りることになります。もっと使い込むと、さらに青い矢印にまで下がるわけです。(図は、説明のために誇張してあります)
 女性用の場合、赤の幅よりも青の幅がずいぶん狭くなります。つまり、あまり大きく削ると(かんべりを何度も直すと)上場が狭くなって使いにくく(使えなく)なってしまいます。
 男性用は、横に「張りだした」感じがします。これによって、かんべりを直しても棹の上場が細くなりにくい。図の赤と青の幅がそれほど変わらないわけです。かんべりを直すのに都合が良いわけです。
 力のある男性が使用する三味線は、かんべりを直す頻度も上がる可能性が高い。そこで、棹の断面を女性用に比べると横に張りだしたような形にしておいて、余裕をもたせてあるわけです。

 この断面図、沖縄の三線の「真壁型」と「与那城型」に似ています。
 「与那城型」は、糸巻きの位置を下にずらしてあるものが本来の形だと聞きます。トゥーイを削り直しても余裕があるようにです。さきほどのお三味線の「男性用」の話から、沖縄の「与那城型」は、糸巻きの位置だけでなく、棹の断面の形にも「トゥーイを直すときの余裕」が考慮されていたのだということがわかりました。
 もう一つ気づくのは、「夫婦三線」の話です。邦楽の「男性用」と「女性用」を「与那城型」と「真壁型」に当てはめれば、夫婦三線として「与那城型」と「真壁型」がよく用いられているという話とも関係なくはないように思えてくるのです。




GO MOUTH HERE MOUTH 左利き用の三線
左利き用の三線がほしい

 ありますね。左利き用の三線。
 左利き用、右利き用、と書くのが面倒なので、左三線と右三線でいきましょう。
 実物を見たことがありますし、インターネットで販売されているのも見ました。
 三線の形というのは、ほぼ左右対称ですよね。糸巻きの部分だけが違います。もし、右手で勘所を押さえるようにしたい。というだけでしたら、わざわざ左三線を買わなくても、右三線の弦の位置を入れ替えるだけで問題なく使えます。入れ替えは、女弦と男弦だけでいいんですよ。中弦はそのまま。
 弦を入れ替えるだけではなくて、右三線と鏡写しの左三線がほしいのでしたら、三味線店にお願いしましょう。
 右三線との違いは、糸巻きの向き。つまり、左三線は正面から見て右側に中弦の糸巻き。左側に女弦と男弦の糸巻きが出ているというだけのことです。三線を作っている人にお願いすれば、それほどむずかしくはないでしょう。
 写真の左側が左三線。というのはウソです。ご覧いただいてわかるとおり、右側の写真を左右反転させて貼り付けただけ。左三線は、つまりこのような形をしているということですね。
 こうして見ていると、どちらが右か左か、わからなくなってきます。

右で弾くべきか、左で弾くべきか

 実は、これが一番気になる部分だろうと思うわけです。
 右利きの構えで弾く、左利きの構えで弾く、と書くのが面倒なので、右で弾く、左で弾く、とします。

(1)演奏できるようになりたい
 三線の練習をして演奏できるようになりたい。という点では右で弾いても左で弾いても問題なさそうです。もともと高度なテクニックを必要としない楽器ですので、右用に書かれた教則本や工工四を見て左での弾き方を練習しても、問題なく練習できるでしょう。
 たとえば、三線の前にギターなどの弦楽器を左で演奏していた人なら、三線も左で弾く方が早く上達するはずです。
 他の楽器を左で弾いた経験のない人はどうすべきか。
 ハサミや包丁は、片手で使う道具ですので、右用と左用の両方があるべきでしょうね。
 三線などの楽器は、両手を使いますので、左利きの人でも最初から右で弾いていれば問題ないと思います。「いや、私は右で弾くことに違和感がある」とおっしゃるのでしたら、先ほど書きましたように左で練習しても問題はありません。
 この項目では、「どちらでもよい」という結論です。

(2)教室に通いたい
 教室に通っていて、しかも、その教室では発表会の計画がある。というのでしたら、私は右で弾くことを勧めます。
 特に、琉球古典では合奏、あるいは斉唱と呼ばれる形態がありまして、舞台上に三線の演奏者がずらりと並ぶわけです。その時に、一人だけ逆に三線を構えていると調和がとれません。
 などと書くと、左利きの人間を排除する気か!としかられそうですが、今のところはこのように書かせてください。といいますのも、独学で三線を練習している場合は、右でも左でも問題ないわけですが、「よし、いっちょう教室の門をたたいてみるか」と思ったとき、教室では左で弾くことを認めてもらえない可能性があります。

(3)個性を出したい
 「左利きは、私の個性です。右で練習すれば右で弾ける。それは当然。でも、私は私らしく、左で演奏したいんです」
 そういう考え、私はけっこう好きです。
 これから先、左で弾く人が増えてくれば、舞台上で合奏するときに、右半分は右で弾いて、左半分は左で弾いているという形も現れるかもしれません。それもいいことだと思っています。古典の教室に通いながら左で弾き続けて、古典の世界に新風をというのもいいかもしれません。ただ、そうなる可能性が高いかと言われると、首を横に振ります。先に書きましたように、初めて触れる弦楽器が三線であれば、左利きでも右利きでも、右で弾いて不都合はないということから考えて、これから先、左で弾く人がそれほど増えてくるとは思えません。
 民謡の世界ですと、自由度が高いです。その左弾きが舞台の上で個性を発揮し、新しいものを生み出す可能性もあります。私は応援したいです。

(4)ハンディキャップの話
 左利きの人は、右で練習すれば右で弾ける。左で練習すれば左で弾ける。だったら、右でやってくれればいいじゃないの。問題ないんだから。
 そういう考え方もありますよね。問題ないから左で弾くのよ、と言ってもよいし。
 ところで、ピアノの場合は左用を使っていませんよね。
 先に書いたように、三線は両手で演奏する楽器ですから、「右で演奏するために左を捨てる」というわけではない。それでも個性をという考えもある。結局その人の考え方次第なのです。しかし、どうしても他の人と違った形にならざるを得ない人たちもいます。
 左利きの話からは外れてしまいます。
 ハンディキャップがあって、片手が使えない人が、足で弦をはじいて演奏できるという話を聞きました。車イスを使っているために、舞台上で正座ができない人もいるでしょう。いろいろな事情で、他の人と同じ構え方ができない人がいると思います。そんな人たちも一緒に楽しめるようになるべきだというのは、右と左の話とはちょっと違いますが忘れてはいけないことだと思います。

追記
 私は右利きです。私にわからないところに「左利きの人は、左で弾く方がいい」という理由があるかもしれません。お気づきの点などありましたら、ご連絡をお願いします。