○工工四で演奏

  1. 安波節
  2. 祝い節
  ☆これまでのまとめ




安波節
安波節(あはぶし)(3C 3F 4C)

*解説
 琉球古典を学ぶ人は、この曲から入ることが多いそうです。ゆっくりしていて、三線は歌とほぼ同じ進み方ですが、三線音楽らしい変化もついています。
 宴席で歌ってもよい、おめでたい内容なのですが、喜ばれるかどうかは難しいところです。どうしても「初心者の歌」という印象が強いのです。とはいえ、先ほども書きましたように、三線音楽らしい曲ですので、一度は経験しておいて損はないでしょう。
歌詞は琉歌体ですのでいろいろなものが流用できます。ここに書いたものが代表的です。一つの琉歌を、上の句「8,8」と下の句「8,6」にわけて歌いますので、下の句では字足らずになります。「までぃまでぃん」、「どぅくどぅくる」と下線部を付け足して字数を合わせます。

*歌詞
一、かりゆしぬ遊び うち晴りてぃからや
 (かりゆしぬあしび うちはりてぃからや)
二、夜ぬあきてぃ太陽ぬ 上がるまでぃん
 (ゆぬあきてぃてぃだぬ あがるまでぃまでぃん)
三、安波ぬまはんたや 肝しがり所
 (あはぬまはんたや ちむしがりどぅくる)
四、宇久ぬ松下や になし所
 (うくぬまちしちゃや になしどぅくどぅくる)

*歌意
一、おめでたい遊びで 心晴れやかになったから
二、夜が明けて太陽が上がるまで(遊ぼう)
三、安波(地名)の崖は、心から寄りすがった所
四、宇久(地名)の松の下は、共に寝る所



*演奏のポイント

 一行目 歌持(うたむち=前奏のこと)
《三線》
 小さな文字の〈中〉があります。小さな文字は小さな音で演奏しますが、十分に小さくならないことが多いようです。意識して小さくしましょう。また、この〈中〉ように五分の位置(工工四の横線の上)に音が入るときには、テンポが早くなりやすいので注意します。
 二行目
《歌》
 「ウ」の部分が、〈上〉の音まで下がります。そのとき、三線は合を鳴らしますので、歌がつられそうになるかもしれません。もし、つられるようなら、三線の〈合〉を〈上〉に換えて歌う練習をし、慣れてから三線を〈合〉に戻すという方法もよいでしょう。


四行目(から や)
 二行目の「ウ」以外は、歌と三線がほとんど同じように進みますが、最後のこの部分が少し難しいかも知れません。
本来は、「ら あ や」と音が一つずつ下りていく感じなのですが、三線の〈四〉の部分で歌声が上がってしまうことが多いようです。〈乙〉と同時に「あ」を言ったら、それをまっすぐ伸ばすように意識しましょう。どうしてもつられてしまうときには、〈四〉を省いて練習して、自信がついてから〈四〉を入れるとよいでしょう。 






祝節
『祝節』(3C 3F 4C)

*解説

 本格的な沖縄民謡です。その名の通り、お祝いの席で歌って喜ばれる歌ですので、宴席などで使えます。実践向きといえるでしょう。早弾きで演奏することも少なくありません。

 短い曲でテンポがよいので、覚えやすいのですが、

  1. 尺が微妙(タブ譜の3と3♯の間くらいになりそうですが、まあ、3♯でいいかも)
  2. すべて方言
  3. 三線の音と歌(声)が微妙にずれる
  4. 〈合〉より低い声を出す

 といった点で、少し苦労するかもしれません。でも、心配しても先へは進めません。とりかかりましょう。



*歌詞

一、御祝事続くヨ  《サーサー》 御世の嬉しさにヨ  ※サーサーユワイヌ サースリユバナウレ(※くりかえし)
 (うゆえぐとぅちぢくヨ みゆぬうりしさにヨ)

二、寄ゆる年までぃんヨ 《サーサー》 若くなゆさヨ ※
 (ゆゆるとぅしまでぃんヨ わかくなゆなゆさヨ)

三、若松ぬ緑ヨ 《サーサー》 床ぬ前に飾てぃヨ ※
 (わかまちぬみどぅりヨ とぅくぬめーにかじゃてぃヨ)

四、枝見りば銀ヨ 《サーサー》 真や黄金ヨ ※
 (ゆだみりばなんじゃヨ しんやくがくがにヨ)

五、白毛御年寄やヨ 《サーサー》 床ぬ前に飾てぃヨ ※
 (しらぎうとぅすいやヨ とぅくぬめにかじゃてぃヨ)

六、産子唄しみてぃヨ 《サーサー》 孫舞方ヨ ※
 (なしぐゎうたしみてぃヨ んまがめかめかたヨ)


*歌意

一、お祝いの続く 世の中の嬉しいこと

二、年を重ねる毎に 若くなるような気分だ

三、若松の緑を 床の間の前飾って

四、枝を見れば銀、芯は黄金

五、白髪お年寄りに 床の間の前(上座)に

六、子どもたちが歌って、孫たちが踊る




 《サーサー》は、歌い手以外の人に声をかけてもらうといいでしょう。「サースリユバナウレ」では、声を掛ける人と歌い手とが一緒に歌えば、にぎやかになって目出度さもひとしおでしょう。

 《サーサー》は歌の調子を整える囃子詞です。「サーサーユワイヌ サースリユバナウレ」も囃子詞ではありますが、「ユワイヌ」=お祝いの、「ユバナウレ」=世が実りあるように、といった解釈もできます。

 この歌は、一つの琉歌を、上の句と下の句に分けて歌います。つまり「一」と「二」で一つの歌『御祝事続く 御世ぬ嬉しさに 寄ゆる年までぃん 若くなゆさ』となります。市販の工工四や歌詞集では、二つ合わせて「一番」としていることも多いようですが、ここでは工工四と照らし合わせやすいように、上の句だけで一番として書いておきます。お祝いの席などで歌う場合は、「一番、二番、三番まで」で終わったりせずに、必ず偶数番号まで歌うようにしてください。





*演奏のポイント

 一行目

《三線》

 本調子の曲です。工工四は、それほどむずかしくないでしょう。〈尺〉の高さは「3♯」まで行くとちょっと高すぎる感じがします。かといって「3」では低すぎます。「3♯」の近くという感じで。

 左図の赤く囲まれた部分は、最初に演奏するだけで、繰り返すときは、矢印部分だけとします。つまり、

演奏開始 A〜B〜B〜歌

という形です。

 沖縄民謡では、演奏者によっていろいろなアレンジがなされていますので、どの『祝節』もここに紹介している通りの演奏というわけではありませんが、「A」でやさしく始めて、「B」でにぎやかに歌へ。という形がよいでしょう。

《歌》

 「うゆ」は、〈合〉よりも低い音になります。〈尺〉の一オクターブ下の音になりますが、そのような理屈で覚えるよりも、歌を聞いて覚える方がよいでしょう。

 声は、〈合〉の音で伸ばしますが、三線の〈尺〉入ります。


二行目

《歌》
 「サーサー」は、歌い手とは別の人に声をかけてもらいます。声を切る前に、次の歌詞「みゆ」がかぶさるようになります。


四行目

《三線》

 歌声は〈合〉の音ですが、三線が「〈工〉〈尺〉〈合〉」と入ります。三線の音が目立つ部分です。この形は、歌声を低く伸ばす部分によく使われます。早弾きでもよく使われますので、慣れておきましょう。
 






これまでのまとめ

確認

(1) 工工四が読める
(2) 打ち音、掛音などの記号がわかる
(3) 練習曲が歌って弾ける
(4) 三線と歌との調和が、美しいと感じられる(ような気がする)


 工工四にもいくつか種類があります。と言いましても、〈工〉はどの工工四でも女弦の開放弦ですし、縦書きで、升目の中に文字が並んでいるなど、基本的な部分はみな同じです。
 琉球古典というジャンルがあります。そこで使われている工工四が一番複雑でしょう。この本で紹介した「基本的な記号」の他に数種類の記号があり(本によって若干の違いがあります)、さらに、歌詞の横にも〈工〉などの音を表す記号(声楽譜)が書かれています。その上、声楽譜にもいくつかの記号があります。ここでは説明をしませんが、琉球古典の工工四、あるいはそれに準じた工工四を見る機会があれば、工工四に説明が書かれていますので、そちらをご覧ください。
 一方、民謡の世界を見てみますと、声楽譜もなく、記号も最小限にとどめられている工工四が少なくありません。ずいぶん気楽な世界に見えますけれど、民謡は個性が強く、演奏者によって使う音や歌詞や曲の長さまで違っている場合もあります。工工四はあるけれど、その通りに演奏している音源を探すのに苦労するくらいです。
 伝統的な演奏をできるだけ忠実に受け継いでいこうとする琉球古典と、大衆化し改作や創作も自由に行える民謡との違いが、工工四にも表れていると言えるでしょう。

 さあ、ここまで来たら、あとは自分の好きな曲を練習できると思います。もし、新しい曲に挑戦してみたけれど、壁にぶつかってしまったというときにはメールをいただければできる限りお手伝いさせていただきます。