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与那国の棒踊り(与那国島)      
 与那国島のお祭りで初めて棒踊りを見たのは、公民館だったと思います。本当は、外でやるはずだったのが、雨で公民館の中になったのだったと。

 とにかく、強烈な印象でした。

 棒術というのは、八重山のお祭りではよく見られる芸能です。文字通り、棒を持って二人一組で戦う様を表したり、時には一人で型を見せたりして、観客を沸かせます。
 棒術は、島(村)によって個性があります。波照間のそれは、頭上で棒を回転させる動きが特徴的ですし、石垣島白保の棒は、アクロバティックな動きがおもしろいとか。
 個性は、動きだけでなく使う武具にも表れます。六尺棒と呼ばれる長いのだけでなく、短い棒、刀、長刀、鎌、櫂(かい)、空手の世界で使われる「サイ」と呼ばれる時代劇の「十手」のようなものが登場する村もあります。書き忘れていましたが、棒術は、一組だけで終わることはなく、普通は数組が順番に、あるいは一度に登場して演技します。組み合わせも「六尺棒対六尺棒」とか「棒対鎌」など、変化をつけてお客さんを楽しませてくれます。
 演技をしている間は、銅鑼や笛が雰囲気を盛り上げてくれます。三線は使われないと思います。


 与那国の棒踊り。友人が「与那国は、棒術じゃないんだ。棒踊りなんだ」と力説していたことを思い出します。
 太鼓を打つ人が、数名(5〜6名)舞台に登場します。それに笛が一人。
 いきなり、かけ声とともに太鼓が打ち鳴らされます。よく聞くと、同時に笛も鳴っています。が、太鼓の打ち方が、それこそ全身全霊を込めて打ち下ろすといった具合で、よほど耳をそばだてて聞かなければ笛の存在に気づきません。見えてはいるのですけれど。
 太鼓の音が小さくなると、笛の音が前に出てきます。しばらくは、この笛のメロディーと太鼓の音を楽しみます。これを「座慣らし」と言うようです。そして、ひときわ太鼓の音が大きくなると、いよいよ棒術、ではない棒踊りの演じ手が舞台に登場します。

 ここで詳細に実況中継をしたいところですが、私のつたない文章では、与那国の棒踊りの魅力を、数パーセントも伝えることができないでしょう。与那国のみなさんに迷惑がかかるかもしれませんので、遠慮させていただきましょう。ただ、特徴を少しだけ書かせていただきます。

 まず、太鼓と笛の音。この太鼓は、脇に抱えられるくらいの大きさで、実際脇に抱えて打つことが多いようです。余韻の長い音ではなく、「ドスン」というような力強く重い音。太鼓の持つ力というよりも、打つ人の力がその音を出しているのでしょう。打つたびに音が振動となって、お客さんの体に伝わるのです。激しい太鼓の音に、笛のやや不安定な音がからみます。私は、この笛の音が全体の緊張感を高めているように思えます。太鼓の音が小さくなると、笛の音が前に出る。緊張感が高まる。そして、踊り手の動きに合わせて、大きな太鼓の音。与那国の棒踊りの魅力の半分は、この太鼓と笛にある。といってもよいと思っています。
 持っている武具がおもしろい。棒はもちろん。大きな長刀(龍の顔がついています)、笠(これと刀で、大きな長刀と戦うのです)、櫂(かい)、鎌と、見ている人を飽きさせません。あの長刀を持つ人だけは、袴をはいています。これがまた、重厚な感じを出しています。
 そして動き。いわゆる「本気で戦っているみたいな迫力」ではありません。同じ動きを繰り返しますし、一つ一つの動きも比較的遅めです。動きの合間に、見得を切ります。「芝居がかっている」と表現すればよいのでしょうか。こう書きますと、なんだか迫力のない、緊張感のない、つまらない棒に思われたかもしれませんね。とんでもない。すごい迫力なんです。二人の武器が交差して、お互いに力で相手をねじ伏せようとするときの動きなど、ああ、言葉で表せないのがもどかしい。とにかく見なさい。

 1981年に、八重芸が与那国の棒を舞台にのせました。そのとき、私は笛を吹きました。舞台の上から、お客さんの様子がよくわかります。太鼓の音、演じ手の迫力ある動き、すべてがお客さんを虜にしていました。演技が終わって、舞台が暗転(真っ暗)になると、拍手の前にお客さんの「おおー」という、地面からわき上がるようなどよめきが聞こえ、一呼吸置いてから、ひときわ大きな拍手が浴びせられました。

 そして、2003年。八重芸は、再度「与那国の棒踊り」に挑戦しました。
 はっきり言って、1981年の舞台よりも、ずっとすばらしいものになりました。ちょっとくやしい。