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つぃんだら節(八重山)    
 八重山舞踊・勤王流ゆかりの地
 と書かれた碑が、黒島の「芸能館」の前にあります。
 「芸能館」は、文字通り、芸能を披露する場所。他の島ですと、公民館か小中学校の体育館、あるいは集落センターなどと呼ばれる施設がその役目を担うのですが、黒島にだけは「芸能館」という立派な名前の施設があるのです。八重芸も、夏合宿で何度かお世話になっております。

 つぃんだら節は、黒島の歌です。

 石垣島の川平湾は、砂浜に下りても美しいのですが、少し高くなった公園の展望台から見ると湾内の島や真珠養殖の筏などが手に取るように見えて、なお美しいです。
 その美しい海の背景には、石垣島の山々が連なって見えます。正面から、左の方へ山をなぞるように見ていくと、その中に、ひときわ目に付く三角定規の直角部分のような形をした山。野底岳です。「野底マーペー」とも呼ばれます。

 黒島から強制移住させられた女性が、彼のいる黒島を見ようと山に登ったけれど、見ることはできなかった。女性は悲しみのあまり、石になってしまった。

 こんな悲しい伝説があります。女性の名前が「マーペー」。八重山民謡誌には『俗称野底マーペーと称する円錐型の山とは異なる』という記載がありますが、女性の登った山が「野底マーペー」ではないという意味なのか、山の名前と女性の名前とは別だという意味なのか、判然としません。
 私は、あの野底マーペーの形が、ひざまづき、うなだれる女性にも見えるので、そこから伝説が生まれたのかもしれないなどと思っているのですが、どうでしょう。

 「つぃんだら節、聞かせれ!」
 「いやあ、歌ったら、泣くど」

 聞かせろと言ったのは、女性の先輩。泣くと言ったのは男性。結局歌うことになって、でも、先輩は泣かなかったと記憶しています。
 泣くと言ったのは、冗談だったのか。それとも本当だけど、たまたま私が聞いたときは泣かずに済んだということなのか。20年以上前の、ほんの数分の出来事です。
 歌って泣ける。これくらい気持ちを込めて歌えるということなのでしょうね。自分の歌になっているということなのでしょうね。「八重山の歌を、歌わせてもらっている」というような私には、うらやましく思えます。

 念のために書いておきます。「歌って泣くなんて、ぜったいダメ」という考え方もありますよ。歌を歌うときには、歌っている自分を客観的に観察できる冷静さが必要だし、そもそも、きちんと歌えないなんて、聞いてくれる人に対して失礼だ。という考え方です。

 でも、泣けるくらいになりたいなあ。