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てぃんさぐぬ花(沖縄)    
 童謡として有名です。三線を練習する人にとっては沖縄民謡の入門曲としても有名です。
 メロディーが美しい。ゆっくりとしていて、歌詞もわかりやすい。「親ぬゆしぐとぅや肝に染みり」なんて言葉も歌だから許せます(?)。とにかく、どこで歌っても喜ばれるすばらしい歌です。

 工工四を見れば、すぐに演奏できます。メロディーも覚えています。楽勝楽勝!さあ歌いましょう。とやってみると歌うのが辛いんですよね。声が高いんですよ。
 一般的な調弦は「三下げ」でしょう。勘所で表しますと、〈九〉の高さまで声を絞り出さなければなりません。女弦がCですと慣れない人には辛いでしょうね。
 調弦を下げればどうってことないんですけど、この曲を入門用にと考えると、問題が起きます。そうです。入門者=初心者に「じゃあ、調弦を下げてください」と言っても簡単にはいきません。これを機会に、調弦を下げる練習をするという気持ちになってくれればいいんですけれど、それが面倒だと言われると、声は出ないし調弦を下げることもできない。お手上げですね。

 そこで、気の利いた人は「本調子」の工工四を見せてくれます。三下げの〈中〉を本調子の〈老〉に置き換えて、〈五〉を〈上〉に、〈工〉を〈四〉にと、それぞれ女弦の部分を中弦に置き換えればいいわけです。これですと、一番高い音は〈五〉です。楽々です。

 でも、やっぱり「三下げ」なんですよね。演奏したことのある人はわかってくださるでしょう。本調子の『てぃんさぐぬ花』って、物足りないですよね。
 三下げですと、「てぃんさぐーぬーはー」の次に三線の〈合〉〈老〉が入るんです。この低音がいいんです。落ち着くんです。これがないと『てぃんさぐぬ花』じゃないんです。

 「てぃんさぐぬ花」とは、ホウセンカのことです。歌詞にもなっている「爪先に染みり」は、子どもが爪の先に花びらをつけて花の色を爪に写すという遊びのことです。
 県外の人にも愛されているこの『てぃんさぐぬ花』。その歌詞の中でも最も有名な『爪先に染みり』という言葉。ほとんどの人が、私の説明を読む前からこう呟いているはずです。

知ってる知ってる。花びらで爪に色をつけるんでしょ。女の子の遊びなんだって。
たしか、お隣の韓国でも同じ遊びがあるとか、何かで読んだことあるわ。
古い日本語でもホウセンカのことをツマクレナイって呼ぶらしいわね。へへ、詳しいでしょ。

 そこで小鼻をふくらましているあなた、あなた、そしてあなた!
 わかった気になっているすべての人に、私は言いたい。(握り拳を作って、少しふるわせる)
 あなた方は、自分の爪を染めたことがあるのか!
 この遊びを実践した人が、いったい何人いるのか!
 やったこともないのに、知っていると言ってよいのか!(ここで、テーブルを右手の握り拳で叩く)

 などと力をこめる必要はないんですけれど、一度やってみませんか?沖縄の保育所や幼稚園なら、子どもたちと楽しく遊びながら、この歌を歌っているんでしょうね。正しい楽しみ方だと思います。

 ちょうど、この記事『てぃんさぐぬ花』を書いているときに、知人からこんなメールが届きました。

私が「沖縄のうた」を通しで聴いた最初は、
坂本龍一「BEAUTY」所収「てぃんさぐぬ花」「安里屋ゆんた」でした。
それをうたっていたのが古謝さんです。
余談ですが、大学の体育の授業の創作ダンス発表では
この「てぃんさぐぬ花」にのせて踊りました。
振り付けは・・・なんと、ウチの大学のチアガールのダンスを超ゆっくりにしたもの。
ある意味シュールレアリズム・・・(んなばかな)。

 これも正しい楽しみ方の一つだと思いますよ。

 ここで、思い出話を一つ。
 『おきなわ島の声(丸木俊 丸木位里)』(小峰書店)という絵本があります。私の住む大阪市内の小学校では、平和教育にこの絵本を使う小学校が少なくないようです。
 絵本の中に、「戦世(いくさゆ)んしまち 弥勒世(みるくゆ)んやがてぃ 嘆(なぎ)くなよしんか 命(ぬち)どぅ宝」という歌が出てくるのです。歌ではなくて、ここでは「詩」という文字のほうがいいのかもしれません。絵本には、題名もなければどんなメロディーなのかも書いていなかったと思います。
 10年ほど前だったでしょうか。近くの小学校の先生から電話をいただきました。話の内容は、先ほどの「戦世〜」の歌を教えてほしいというものでした。琉歌の形になっていますので、いろいろなメロディーに乗せることはできますが、はて、本当のメロディーはどういうものなのか。それがまったくわかりません。いいかげんなことは教えられませんので、「残念ながらわかりません」とお伝えしました。
 その後、別の小学校の先生から、今度は三線を弾いて歌ってほしいという話が来ました。知らない歌です。と言うと、その先生、どこかで聞いてきたとかで、私の前で歌ってくれたのです。なんと、『てぃんさぐぬ花』のメロディーでした。
 作者が、絵本の中に『てぃんさぐぬ花』のメロディーで、とは書いていなかったと思います。そのメロディーでいいから、子どもたちの前で歌ってくれと言われたので、歌いましたけど、私は妙な気分でした。


2004,4