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高那節(八重山)        
 おもしろい歌は、歌いたいと思う人が多い。

 この歌は、おもしろいです。沖縄民謡の民謡歌手も歌うことがあります。「ざんざぶろう」とも呼ばれています。

 「これ。弾ける?」

 女性の先輩が、まだ一年生だった私の前に工工四を広げます。八重芸は、基本的に女性が踊り、男性が歌三線ということになっていました。この先輩、私に三線を弾かせて、一緒に歌って遊んでいるわけです。
 「八重山古典民謡工工四」の上巻を開いて、最初から順番に演奏します。といっても、先輩の知らない曲は省いたり、これは二揚で歌うからととばしたり、で、実際に演奏するのは掲載曲の半分くらいでしょうか。私が知っている曲は先輩と一緒に歌えますが、それは2,3曲です。当時の私には知らない曲がほとんどでしたので、先輩が歌って、私は文字を一生懸命追いかけながら三線を弾いていました。「本当にこんな曲なんだろうか」と心配しながら。
 楽しくなかったわけではありません。いえ、とても楽しい時間でした。ですが、腕も目もだんだん疲れてきます。なんとか最後の曲にたどり着くわけですが、その最後の曲というのが『高那節』でした。軽快な曲ですし、最後の一曲ですし、この曲が大好きでした。

 『高那節』は、工工四を見るとびっくりするくらい長いです。といっても、曲が特別に長いわけではありません。
 他の曲ですと、1番分の工工四と歌詞が書かれていて、2番以降は歌詞だけを掲載しているものですよね。この『高那節』は、1番3番と2番4番で歌い方が違っているので、1番から4番まで全部工工四になっているのです。
 『島唄』の工工四を見たことがありますが、あれも長いですね。もともと、五線譜に書かれていたのでしょうね。五線譜ですと、いくつかの反復記号を使って、部分的な繰り返しやジャンプなどを表記できますので、工工四よりも短くなっているのではないでしょうか。『高那節』も、五線譜にすれば短くなるでしょう。
 『高那節』の、この長い工工四は、初心者の私にはありがたい工工四です。ページをめくりながら演奏すると、それで1番から4番まで歌えてしまうのです。他の曲ですと、2番以降は歌詞か工工四のどちらかを覚えていなければ演奏しながら歌えません。それに、歌詞を工工四のどの部分に当てればよいかもわかりません。だから、工工四に2番以降の歌詞を鉛筆書き!なんて、みなさんもやったことがおありでしょう?
 話はそれましたが、とにかく、『高那節』はその点で初心者にありがたい工工四でした。

 なんとか最後まで歌いながら演奏して、ほっとしたところに、

 「できるさあ。じゃあ、踊るから、弾け」
 「えー、一人で?」
 「できるよ。弾け」

 先輩が立ち上がります。地方をやれ。という意味です。
 歌持スタート。歌います。
 踊り手を見る余裕などありません。でも、先輩の足を打つ音や衣擦れの音、動いている気配から、ちゃんと踊れているらしい。私の地方もけっこういけてるのかな。と思ったのもつかの間。大問題発生。さっき先輩と二人で歌っていたときには、先輩が工工四のページをめくってくれていたのですが、今は私一人です。あれよあれよという間に、ページの最後まできてしまいました。めくってくれる人がいません。三線が止まります。

 「すみません、ちょっと待ってください・・・」

 あわてて工工四のページをめくる私。腰に手をあてて立っている先輩の、視線が痛かったです。

2003,9