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祖納岳節(八重山)      
 祖納は、西表島の村の名前です。
 現在、西表島の玄関といえば、大原港か船浦か、ということになるでしょうか。人口もそのあたりに多いようです。でも、古くは、祖納が西表の中心地であったようです。

 祖納岳は、神聖な山だと聞いたことがあります。それだけに、この歌も島の人が大切に受け継いできたのでしょう。豊穣を願う、ゆったりと落ち着いた歌です。

 踊りには、二通りあるようです。現在、祖納で踊られているのは扇を使う踊りだと思います。それ以前に、四つ竹を使う踊りがあったそうです。

 歌と踊りは、同時発生というわけではないはずです。歌が先にあり、それに後から踊りが振り付けられる。と考えるのが普通です。そのため、一つの歌に複数の踊りが振り付けられていることがあります。
 四つ竹は、扇に比べると地味です。「音がなるから、扇よりも派手じゃないの」と思われるかもしれませんが、音は地方でいくらでも工夫できます。見た目の華やかさは、やはり扇でしょう。
 そんなわけで、祖納岳節の踊りは、扇に移行してしまったそうです。

 八重芸の部員だったころ、その四つ竹で踊る祖納岳節の話を聞いて、調査しました。その結果、石垣島の老人福祉施設に祖納出身のご夫婦がおられて、おじいさんが歌を、おばあさんが四つ竹の踊りをご存じだとわかりました。
 連絡をとって、施設訪問。食堂のような広い場所で、ご夫婦にお目にかかりました。お二人とも大変お元気で、受け答えもしっかりしておられます。
 女性部員がおばあさんから踊りを、私がおじいさんから歌を習いました。

 歌は、事前にある程度覚えていました。でも、歌う人によって微妙に変わってくるのが民謡の常。おじいさんの歌を聞いて、覚えて、私が歌い、修正してもらうという作業を繰り返しました。
 歌を覚えるのに時間はかかりませんでしたが、どうしてもおじいさんを満足させられないのはスピードでした。私の歌い方では、速すぎるのだそうです。
 他の歌にも言えることですが、おおむね、昔の歌い方というのはゆっくりしています。生活のリズムの違いかもしれません。昔の歌い方と踊り方を見てきた人にとっては、余りにも速すぎる歌と踊りは味わいのないものに見えるのでしょう。
 何度もやりなおして、やっとOKが出ましたが、それでもなお「速くならないように気をつけて」と言われました。

 祖納岳を教えていただいたあと、職員の方と相談して、私たちの歌と踊りを施設のみなさんに披露させて頂くことになりました。事前の打ち合わせもなにもなく、その場で「踊りましょう」という話になったはずです。職員の方が館内放送を流し、みなさんが食堂に集まってこられました。小さな舞台がありましたので、そこで数曲踊りを見ていただきました。もちろん、見ていただいた踊りの中に、覚えたての「祖納岳節」もありました。おばあさんと、部員の共演です。部員は、懸命に踊りを合わせようとしていました。
 おばあさんは、大勢の人の前で踊るのは久しぶりだったのではないでしょうか。ご自分の島の踊りを、誇らしげに踊っておられました。踊り手も、お客さんも、大変よろこんでくださいました。
 ずいぶん昔のことで、取材当時のことを細かいところまで覚えていないのですが、たしかこのような様子だったと思います。