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んざとうらユンタ(八重山)    
 そもそも「ん」から始まる言葉があると言うこと自体、驚きでした。

 ヤー んざとらぬ かんようらぬ みやらび
 ヤー いみしゃから みゆとぅばなりど うだそうぬ

 喜舎場永c氏の『八重山古謡』(沖縄タイムス社)では、少し歌詞が違っています。石垣市新川の歌として紹介されていますが、私が教えていただいたのはどこの歌い方だったか、記憶していません。
 この「んざとうらユンタ」は、八重山の広い範囲で歌われているようです。
 『南島歌謡大成』(角川書店)では、
 白保「んざとうらじらば」、竹富「んがどうりゃ〈じらば〉」、黒島「んざとうら」、(以上、ジラバ)や
 新川「んざとうらゆんた」、石垣「んざとーらぬ」、
 その他の書籍で、宮良「んざとうりぃじらば」、与那国では「んだたら」という歌になっています。

 このユンタは、大変勉強になりました。
 まず、メロディーのこと。
 上に書いた二行の歌詞。どちらも{ヤー」から始まっていますが、最初の「ヤー」と二行目の「ヤー」では、二行目の方が一オクターブ高く出し「いみしゃ」までのメロディーが少し違っていて、後は一行目と同じになります。
 このように、偶数番号を「揚げ出し」で歌うのです。(ユンタでは「揚げ出し」という言葉を使わないと思いますが)交互に出だしの音が変わるのを「ウティナンスサナン」と呼ぶことがあるようです。

 次は、歌の内容。
 夫婦の離婚、復縁といった内容なのですが、とにかく長い。私は、最初の6句しか教えていただきませんでしたが『八重山古謡』には三十六番まで書かれています。ワイドショー的な内容です。ユンタの世界は、このような「噂話」のような内容があるかと思えば、身近にいる動物を題材にした歌、物の始まりを説明した歌など様々です。しかし、どれもたいへん身近な題材です。その意味で、「鷲ユンタ」は異色です。

 そして、歌い方。
 舞台では、車座になって男女交互に歌いました。ユンタは「労働歌」と呼ばれることもありますが、実際は、仕事の場で歌うと決められたものではなく、お祝いの席で歌われたりもしたようです。
 三線の伴奏はありません。最初にだれかが(もちろん、決まった人ですが)「ヤー」という声を出すと、その音程でみんなが(男女交互ですので、最初は男性が)歌い始めるわけです。これを、「楽しそうに」歌うわけですが、最初は、なぜ楽しいのかがわかりませんでした。
 ユンタには、手拍子に合わせて歌えるようなリズミカルなものもありますが、「とぅばらーま」のように声を長く引き延ばす歌い方のものもあります。この「んざとうら」はリズミカルな方です。みんなで手拍子に合わせて歌っていると、仲間との一体感が心地よいです。
 この、曲調の違いを「ユンタ」と「ジラバ」の違いだと説明する人もいますが、ある地域ではリズミカルなものを「ユンタ」とし、別の地域では「ジラバ」としたりと、八重山全体を見渡した場合には「ユンタ」と「ジラバ」を曲調で区別することは難しいようです。

 といったことが、この「んざとうら」で勉強できました。ユンタの入門にはうってつけの曲だと思います。ただ、残念なことにCDやカセットでは見つけられないでしょうね。

2003,7